第2話

「それってわたしたち死んじゃうってこと!?」


 妹が驚愕の声を上げる。わたしは妹にこの世界の筋書きを説明していた。


「このままだとそうなるね」

「やだー!」


 素直な妹の反応に頬が緩む。一人だと不安だったが二人ならなんとかなるんじゃないかと思えてきた。


「嫌なら変えよう」

「変えるって?」

「悪役から足を洗うんだ」


 わたしたちはそれぞれ魔法学校の中等部三年と二年だ。主人公の入学してくる一年前。まだ主人公をいじめていない今ならやり直すチャンスはあるはずだ。


「なるほど。ゆり姉さすが!」

「みな、呼び方気をつけなよ?」

「わかったー」


 妹は明るく返事をした。わかっているんだかいないんだか。


「それにしてもゆり姉が男になっちゃうとはね」

「本当にねえ」

「イケメンでよかったね」

「よかった……のかなあ」


 なんでもないモブに転移した方が何倍もよかった気がする。


「そういえばみなは『双聖のファンタジア』読んだの?」


 わたしが随分前に貸したのだ。


「う……ちょっとだけ」

「そっか」


 わたしと妹は趣味が違うのでなかなか同じ作品を読まない。妹のためにも逐一色々と教える必要がありそうだ。


「まずは屋敷の人たちとの関係改善をしよう」

「うん」


 わたしたちは家の中でも相当居丈高に振る舞っていたようで、邸内で働く人たちにもそれとなく避けられていた。


 まずは味方を増やさなければと言うことで屋敷の人たちと仲良くなろう大作戦が始まった。


 まずは基本から。わたしたちは積極的に挨拶をするようにした。


「おはようクロエ」

「お、おはようございます!」


「おはようゼフ」

「……おはようございます」


 使用人たちの名前を覚えて声をかける。はじめは怖がられているような気がしていたが、次第しだいに邸内の緊張が解けていった。


「うまくいったねゆり姉」

「うん、この調子で行こう、みな」


 わたしたちは夏休みの間中、使用人たちとの関係改善に努めた。今では自然に挨拶ができるし、世間話もしてくれるようになった。


 そんなある日、屋敷に薬師が来た。常備薬の整備のためで大したことはなかったが父が対応していた。


 そこに薬師の息子も同行していた。一大事だ。なんと言ってもこの薬師の息子、ジョッシュがわたしの好きなキャラだからだ。


 魔法薬学に長け、どこかミステリアスな雰囲気。前髪から覗く鋭い目も素敵だ。わたしは実際にその人を見て改めて心を打ち抜かれてしまった。


「なになに、お姉ちゃんの好きな人?」

「しーっ」


 妹を静かにさせる。聞こえたらどうするんだ。遠目に見ていたが視線に気づかれたようでジョッシュがこちらに会釈する。


 わたしは心臓が跳ねそうになったがなんとか落ち着けて会釈を返した。


「緊張した緊張した」

「かっこいい人じゃん! いいねー青春」


 みなは気楽なものだ。こちらを見てニヤニヤしている。わたしはちょっと不機嫌な顔をして中に戻った。


 もうすぐ夏休みが終わる。つまり学校が始まると言うことだ。「双頭の蛇」の異名はすでにつけられ汚名は広がっている。印象を変えるのは屋敷内より難しいだろう。


「大丈夫かなあ」

「やるしかないよ」


 わたしたちは学校の子と仲良くなろう大作戦を企てるのだった。


 

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