でん×どう
「なあ、電信柱ってどう思う?」
空が晴れ渡ったある日の朝、海老原が近くの電信柱を見ながら言う。これはおそらくあれだ。無生物BLの時間だ。
「どうって、いつものアレ的な奴か?」
「そう。俺はさ……道路にいつも刺さっててエロく感じる」
「オーケー、海老原。話を聞こう」
聞いてもマズイけど、聞かなくてもマズそうなので聞くことにした。とりあえず今回のはこれまでの中でもかなりヤバそうなのでここで止めないといけないのだ。海老原は一瞬驚いた顔をしたが、やがて嬉しそうな顔をした。
「ありがとうな、主原!」
「どういたしまして。それで、電信柱か……まあとても太くて長いし、等間隔で何本も立ってるよな」
「だよな。でん君は──」
「あら、主原君に海老原君じゃない」
「ん?」
後ろを見ると、そこには茨島が立っていた。
「茨島か。こんなとこで会うなんて珍しいな」
「…………」
「どうした?」
「相変わらずの声だと思っただけ。因みに、何を話していたの?」
「ああ、電信柱について話してた」
「電信柱?」
「そうだ。茨島は電信柱をどう思う?」
茨島は電信柱に視線を向けると、しばらく眺めてからポツリと呟いた。
「たくましいわね。人工物のわりには」
「た、たくましい……」
「そうなんだよ! なんだ、茨島とはなんか違うものを感じた気がするけど、そんなこと無かったんだな!」
「勘違いしないで。私とあなたは相容れない。今回は少しだけあなた寄りの意見になっただけ」
「うーん、そっかあ。けど、せっかくだから茨島も聞いてくれないか?」
「……まあ敵情視察みたいなものではあるし良いわ。さあ、話してみなさい」
俺が若干空気になる中、海老原は話を始めた。
「まず、でん君は太いけど長い。言うなれば、背丈が高くて肩幅が広いタイプだな」
「スポーツマンタイプか」
「そうみたいね」
「それで真っ直ぐな性格をしていて、真面目なんだが、どう君に対してだけはちょっとSっ気があるんだ」
「どう君……あ、もしかして道路か?」
「お、流石は主原だな!」
「ここまで嬉しくない流石もないな」
ため息混じりに言っていると、茨島が腕を組みながら口を開いた。
「なんとなくこの後の流れは察したけれどまあいいわ。続けて」
「ああ。それで、どう君も背が高くてガッチリとしてるんだけど、どう君はおおらかな性格なんだ。色々な奴の手助けをしたり初対面同士の橋渡しをしたりさ」
「まあ道路だし色々な奴を通すよな」
「そして二人は日々協力しながら色々な奴のために頑張ってるんだけど、その内に二人の間に愛が芽生えるんだ。同じ目的のために頑張ってるからこその連帯感みたいなのが手伝ってさ」
「そういう感じか……」
「まあそういうのも悪くはないわね」
俺達が納得する中、海老原は嬉しそうに話を続けた。
「お互いにその感情に最初は驚くし困惑するんだけど、お互いに打ち明けあった後はその愛が爆発するんだ。そしてでん君はちょっと暴走気味になるんだよな」
「暴走?」
「真っ直ぐな性格だったからこそどう君への愛の爆発に色々と混乱して、どう君のおおらかさが許す限りに色々な事をする。休みの日で二人以外誰もいない時にずっと繋がってるとかな」
「あー……それで話の初めの方のずっと刺さってるとかに繋がるのか」
海老原は嬉しそうに頷く。
「そして等間隔でっていうところもポイントで、それを一定の間隔でやるんだよ。休みじゃなかったらちょっと道具を使ったりな。それで、やっぱりでん君は反省する時もあるんだけど、どう君はでん君の事をしっかりと受け止めて二人は愛を育み……ああ、尊いなあ」
「今回はちょっとヘビーな感じだったけど、まあ海老原が楽しそうならいいか」
「そうね。でも、主原君。あなたは私と一緒に自然物に想いを馳せる時間も作ってもらうからそれはわかっておいて」
「ああ、わかった。お前の話だけ聞かないなんてのもズルいしな」
すると、茨島は一瞬驚いた後に頬を軽く染めた。
「そ、それじゃあ楽しみにしてるわね」
そう言って茨島はスタスタと歩いていってしまった。
「ばらじ……行っちゃった」
「茨島か……」
「ん、どうした?」
少し顔を赤くしている海老原に聞くと、海老原はハッとしてから首を横に振った。
「な、なんでもない。ほら、俺達も行こうぜ」
「あ、ああ」
そして俺達は再び歩き始めたが、俺の胸は何故かズキズキとしていた。
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