いや×けす×いや
「……なあ、イヤホンのカップリングっていいよな」
二人で海老原の部屋でのんびりしていた時、ふとそんな事を言い始めた。これはあれだ。またあの時間が来てしまったのだ。
「……無生物限定のBLって奴だっけ? 今度はイヤホン同士なのか?」
「いや、今回はワイヤレスイヤホンの双子とイヤホンのケースなんだ」
「……俺、お前からその手の話題聞くの二回目なんだけど、いきなりレベル上がってないか?」
「そうでもないって。それで話の続きなんだけど」
「平然と続けるな。まあいいけどさ」
俺は座り直して話を聞く準備をする。海老原的には俺ぐらいしか話せる相手がいないのだからとりあえず聞いてやるのが友達というものだろう。
「まず、ワイヤレスイヤホンって二つ揃ってこそだよな?」
「まあそうだな。片方だけでもなんか気持ちが悪いなとは思うよ」
「だから、ワイヤレスイヤホンは双子なんだよ。それもいつもステレオで話しかけてくる賑やかな双子だ」
「あー、活発な感じの双子か。そのイメージは沸くな」
「お、ほんとか? お前もこっちの世界に少しずつ近付いてきてるな!」
「喜ぶな」
嬉しそうな海老原を見るのは悪いわけじゃないが、俺はそっちに行きたいわけじゃない。
「それで、イヤホンのケースは物静かな猫系男子なんだ」
「猫系?」
「ああ。ほら、イヤホンのケースってたまに見つからないだろ? 充電中ならわかりやすいけど、それ以外の時ってカバンの中で他のに紛れたりしてすぐに出てこないことないか?」
「ああ、それはあるな。手の中に収まるサイズだし、隠れがちではあるかもな」
「それでいてふと出てきてこちらをビックリさせてくるけど、向こうは何食わぬ顔でいるんだ。ほら、なんか猫っぽいだろ?」
「たしかに……」
「因みに、一般的な猫系男子っていうのは、自分を持っていたり自由ではあるけど、甘えん坊だったりするんだってさ」
「へー、そうなのか」
珍しく感心していると、海老原は再び話し始めた。
「そして双子のイヤホン君達とケース君は幼馴染みで、性格的に真逆だけど気は合うから服の色とかもお揃いになるんだ。実際、イヤホンとケースの色って同じになりがちだしな」
「そうだな。俺の奴はどっちも黒だし」
「そんな自由人で飄々しているケース君の事を賑やかで構ってオーラを常に出してるイヤホン君達は好きだけど、イヤホン君達は歌を歌うのが得意だから他の友達も多くて、結構ケース君といる時間が前よりは少なくなるんだ。でも、ケース君はケース君で自由なところがあるから向こうに向こうの付き合いがあるって考えてほっとくんだ。実はイヤホン君達に甘えたい気持ちはあるけどさ」
「お互いにしっかりとした付き合いはしてる感じか」
「そう! やっぱり主原って素質あるよな!」
「なくていい。それで?」
「けど、やっぱりイヤホン君達はイヤホン君達でケース君と一緒にいるのが好きだし、ケース君はケース君でイヤホン君達と一緒にいたいから、自然と三人で集まる機会を作り、その時にはお互いの想いをぶつけ合って愛し合うんだよ。また離れていても大丈夫なようにケース君とのふれあいでイヤホン君達は想いの充電をするんだ……」
海老原はうっとりしながら言う。その姿は傍目から見れば変な奴だし、それを気持ち悪いと言う奴は少なからずいるだろう。けれど、コイツだって自分の世界を持っているし、それを否定する権利は俺にはない。まだまだ理解の及ばない世界だけど、そういう姿は少しだけカッコいいと思えてしまっていた。
「……まあそういう関係の奴らも世の中にいるだろうしいいんじゃないか? 人の関係性にあれこれ言うのは違うしな」
「主原……へへ、やっぱりお前にこういう話が出来て幸せだよ、ありがとな」
「どういたしまして」
「それで今回もちょっとお礼がしたいんだけどさ……」
「そんなにしてくれなくていいのに……それで何をしてくれるんだ?」
海老原はニッと笑いながら答えた。
「イヤホンを擬人化して、お前の耳元で囁いてる絵って欲しくないか?」
「……欲しい」
その後、俺は活発な黒髪ショートと穏やかな黒髪ロングの女の子がセーラー服姿で俺の隣に立ち、少しだけエッチな顔で囁いている絵をデジタル画で貰い、それを携帯に大切に保存した。
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