【急募】無生物BLを語る友人の対処法
九戸政景
かて×まど
「……カーテンってさ、エッチだよな」
夕暮れ時の教室で雑談をしていた友達の海老原友也が不意にそんな事を言う。
「カーテンがエッチ……ああ、誰かがくるまってる姿がちょっとエロいみたいな感じか?」
「そうじゃなくて、カーテンそのものがエッチだよなって話だよ、
「ん、んん?」
何を言っているのかわからなかった。いや、言葉はわかるんだが、その内容がまったく頭に入ってこないのだ。
「え、えっと……」
「ああ、お前にはまだ話してなかったよな。俺、無生物限定の腐男子なんだ」
「無生物限定の……腐男子?」
「一応、人間同士のBLにも萌えられるけど、メインは生物じゃない道具とか乗り物ってこと。だから言ったんだよ、カーテンそのものがエッチだって」
「お、おう……?」
何を言っているのかわからなかった。いや、腐男子や無生物という言葉の意味はわかるが、結局カーテンがエッチというのがどういう事なのかわからなかった。
「え、えっとさ……お前、いつからそうなんだ? お前とは幼稚園の頃からの付き合いだし、好みの女のタイプとかも話したりしただろ?」
「俺の性の目覚めは小学校の頃だった」
「あ、結構前だったし、普通に話してくれるのな」
「最初は鉛筆君と消しゴム君のBLだったなぁ」
「鉛筆と消しゴムに君をつけるなよ。ケシカスに君をつけてたら色々問題だったぞ」
俺のツッコミに反応せずに海老原は懐かしそうな顔をする。
「消しゴムに鉛筆を刺す奴って普通にいただろ?」
「ああ、いたな。なんか小さな水玉模様になってる消しゴム持ってた奴」
「それを見てた時に感じたんだよ。えん×けしの可能性を」
「違うものも同時に感じてただろ、その感じだと」
「いつもは鉛筆君の後始末をする世話焼き系お兄さんの消しゴム君と色々汚してしまうやんちゃ系後輩の鉛筆君。ある時、鉛筆君は消しゴム君を自分の色に染めたいという欲求にかられる。その結果、鉛筆君が選んだのはただ消しゴム君を染めていくのではなく、自分のとがったモノを消しゴム君の後ろから刺すことで自分がつけた痕を残し、身体にも心にも自分の証を残す方法だった」
「とがったモノって言い方止めろ。とがったはまだしもモノに関しては狙ってる言い方だろ」
海老原は恍惚とした顔をしていたが、やがてその顔を俺に向けてきた。
「それでいま思ったんだよ、かて×まども尊いなと」
「かて×まど?もしかしてカーテンと窓のBLのことを言ってるのか?」
「そうだ。穏やかでミステリアスな一面を持ちながらも少し扇情的な服装をするカーテン君と結構あけすけに物を言うし、自分の感情を隠す事もない窓君。そんな対極的な二人が出会い、ぶつかり合いながらも愛を育んでいく。素晴らしいと思わないか?」
「そりゃ窓は基本的に透明なガラスだからあけすけというかスケスケだろ。というか、ステンドグラスの場合はどうなんだよ」
その瞬間、海老原は雷に打たれたような衝撃を受けたのか驚いた顔をしていた。
「ステンドグラス……! 美術への造形も深く、自身も芸術家として大成しているが、自分の過去やなどについてはまったく語ろうとしない秘密主義を地で行く男……! お前、天才か?」
「お前とのこの時間はある意味天災だよ。まあお前がどんな趣味してようと絶交する気はないけど、俺以外の奴の前ではそんな話するなよ?」
「あ、そういうタイプの恋人はNGだから」
「俺だって男と付き合いたいわけじゃないっての! はあ、まったく……」
海老原の言動に俺がため息をついていると、友達は嬉しそうに笑った。
「けど、お前が友達を止めないでいてくれるのは嬉しいぜ。何だかんだで話も聞いてくれたしな」
「……ダチなんだから当然だろ?」
「お礼といったらなんだけどさ……」
「ん、なんかくれるのか?」
「お前好みにカーテンを擬人化した女の子の絵を描いても良いんだけど……いるか?」
「……いる」
その後、俺は少し小柄で胸も控えめ、長いクリーム色の髪に幼さの残る顔立ちの女の子がレモン色のワンピース姿でカーテンにくるまっている絵をデジタル画でもらい、それを携帯に大事に保存した。
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