3. お誘いと脱獄 ~ ハーレムに向けた課題を添えて ~

「当学園の教師になって頂けないだろうか」

「ええ!?」


 ほとんど揺れない高性能な馬車の中、突然の誘いにホワイトは困惑して目を白黒させていた。


「生徒ではなくて、教師ですか?」


 魔法学園に入学したいものの、助けた恩を利用したくないホワイトはそのことを言い出せないでいたのだが、逆に学園長からスカウトが来た。しかしそのスカウトは学園への入学では無く、教師として赴任する形だった。


「ふぉっふぉっふぉっ、貴殿ならば当学園で学ぶことなど何もなかろう。何しろリング・コマンドの発見者にして新時代を切り開いた先駆者じゃからの」

「流石にそこまではっきり言われると照れ臭いですね」


 自分のことを世の中に喧伝してあると言われているため、こうして評価されていることは知識として知ってはいたが、いざ実際に褒められるとむず痒かった。


「それでどうじゃ。引き受けてくれんかね。リング・コマンドについて教えられる人はおろか、使いこなせる人材もまだほとんど居ないのじゃ。先程の戦いではリング・コマンドを活用して複数の属性を瞬時に切り替えて魔法を放っていたのじゃろう。ワシには切り替えの様子が全然見えんかった。あれほどの練度で使いこなせているのは流石始祖殿と言ったところか」

「使いこなせているのと、教えるのが上手かは別の話だと思いますが……」

「ふぉっふぉっふぉっ、謙遜する必要はないぞい。まだ幼い令嬢達に指南し、使いこなせるようにしたのであろう。彼女達は今や世界屈指の魔法師になっとるわい」

「へぇ、そうなんですか。皆やるなぁ。でも彼女達は聡明で筋が良かったから、教えるのが私でなくても簡単に習得したと思いますよ」


 これは謙遜では無く本心であった。

 実際、幼くてまだホワイト自身がリング・コマンドについて曖昧な認識だったにも関わらず、彼女達はすぐにその性質を理解して使えるようになったのだ。


 なお、それが彼女達のホワイトへの想いが高すぎるがゆえの必死の努力の成果であることをホワイトは知らなかった。


「それでも、じゃ。是非貴殿に教師になって頂きたい。もちろん、広告塔にするなどの不誠実な対応はせん。自由に教鞭をとって頂いて構わぬ」


 教師として魔法学園に所属し、魔法について他者に教える。

 そのこと自体はホワイトにとって好ましい仕事であった。

 それにとある目的を達成させるためにも有効だと思えた。


 しかし、それでもホワイトにはすぐに頷けない不安があった。


「あの、一つ聞いても良いですか?」

「なんじゃ?」

「私は平民ですが、それでも良いのでしょうか」


 魔法学園ともなれば、沢山の貴族が通っている。

 サンベール王国は貴族制度の廃止が検討されていると噂されているが、貴族と平民に身分差があるという意識は国民に深く根付いている。学園に通う貴族の中にも、選民的な思想の持ち主が居る可能性が高いし、なんなら教師側にそのような考えが蔓延しているとも限らない。


 クラウトレウス魔法学園のように。


「ふぉっふぉっふぉっ、なんじゃそんなことか。魔法学園は実力主義。身分など何ら意味を持たないのが伝統じゃ。貴殿が平民だろうが全く関係ないことよ。尤も、優秀すぎるということで特別扱いはされるじゃろうがな」

「そう……ですか……」

「ぬ? 信じられぬのか?」

「…………」


 学園長はホワイトが平民だと聞いても、眉を顰めることなく自然に受け入れてくれた。隣で話を聞いていたライムギ教師も同様だ。

 魔法学園に対する不信感はまだ拭えないが、クラウトレウス魔法学園とサンベール魔法学園が同じとは限らない。それに目の前の人が好さそうな二人は信じられるとホワイトの直感が言っている。


「実は……」


 そこでホワイトは、自分がクラウトレウス魔法学園で体験したことについて相談するのであった。


ーーーーーーーー


「93番!93番はいるか!」


 それは試験を終えて待合室で他の人の試験が終わるのを待っていた時のこと。

 試験官がやってきて93番の受験生を呼び出した。


「(なんだろう。嫌な予感がする)」


 そして93番ことホワイトは、その呼び出しに危険を感じていた。

 しかしここで名乗り出ないことはあり得ない。

 何か問題があったのならば、しっかりと釈明して理解してもらわなければ不合格になってしまうからだ。


「はい、私が93番です」

「貴様か! 来い!」

「わ!わ!何!?」


 ホワイトが立ち上がると、複数の試験官が待合室の中に入って来て、ホワイトの両腕を掴み強引に部屋から退出させようとしてきた。


「何がどうなってるのですか?」

「うるさい! 黙ってついて来い!」


 状況を確認しようにも何も答えてくれず、まるで犯罪者を連行するかのように、両手を背後に固定されて歩かされた。


「これをつけろ!」

「え?」


 歩いている途中、試験官らしき人が強引にホワイトに首輪を嵌めようとしてきた。

 それが危険な代物であると瞬時に察知したホワイトだが、ここで抵抗したら何が起きているのか分からないため、今は大人しくその首輪を受け入れることにした。


「(まさかこんなものをつけられるなんて、本当に何がどうなってるんだ?)」


 やがてホワイトは豪華な部屋へと通される。

 そこでは三人の老齢の男性が座っていて、ホワイトに蔑むような視線を投げつけていた。


「頭が高い!」

「ぐっ……」


 両手を後ろで拘束されたまま、試験官に強引に床に膝立ちにさせられた。


「何故私がこのような目に遭わなければならないのですか!」

「薄汚い平民風情が、勝手に口を開くな!」

「なんだって!?」


 クラウトレウス魔法学園は実力主義であり、学園内では身分など一切関係なく貴族も平民も対等な関係という伝統があることで有名だ。もちろん、プライドの高い貴族や自らを卑屈に捉えすぎる平民が多い現状で、本当の意味での対等なんてあり得ないとホワイトは思っていたが、表面上は対等である形で運営されているのだとも思っていた。


 だが今自分が受けているのは、明らかな平民蔑視。

 この部屋の豪華さから考えるに、目の前にいるのは学園の中でかなり立場の高い人物。

 学園の上層部が貴族優遇の思想に染まっているのだろう。


「…………」


 このまま抵抗の意思を示し続けると、彼らは押さえつけるための罵詈雑言を繰り返すだけで話が続かないだろう。そう思ったホワイトは、敢えて抵抗の意思を弱め、頭を下げて黙ることにした。


「ようやく自分の立場が分かったか」


 試験官は満足そうに言うと、ホワイトの脇腹あたりを強く蹴り上げた。


「(痛い演技しないと話が始まらないよな。まったく面倒だ) くはっ……」


 痛くも痒くもない一撃に苦悶する演技をしながら、早く肝心の要件を言って欲しいと願うホワイトだった。その願いが通じたのか、目の前に座っている偉そうな人の一人が口を開いた。ようやく本題に入ってくれるらしい。


「伝統ある我が学園で不正を働くだなど、なんとも愚かな」

「(不正?)」


 なんのことだ、と確認したかったけれど、口にしたところで勝手に話すなと蹴られるだけだろう。

 色々と言いたいことをぐっと堪え、ひとまず話の続きを聞くことにした。

 

「言え。一体どのようなカラクリを使った」


 カラクリと言っても不正など何もしていないホワイトには答えられようが無かった。


「学園長が聞いているのだぞ。答えろ!」

「(あれ学園長だったのか) ぐぅっ……」


 蹴られるたびに演技をするのが面倒だが、情報を引き出すためにはもう少し我慢するしかない。


「身に覚えがございません」

「身に覚えがないだと?」

「はい」

「ならどうして平民のお前が、貴族しか知らぬ問題を答えられているのだ」


 学園長に詰問され、ホワイトは自分のやらかしにようやく気が付いた。

 確かに思い返してみれば、筆記試験の中には貴族にとって常識であるが平民には知るはずのない問題もあった。それを平民の自分が答えたとなれば、カンニングなどの不正を働いたと思われても仕方が無いだろう。


「知り合いの貴族の方から教えて貰いました」

「何を見え透いた嘘を。貴族が平民などに教える訳が無いだろう」

「本当です!」

「黙れ、この嘘吐きが!」

「(そりゃあ信じてもらえないよね)ぐっ……」


 ホワイト自身、自分の境遇が特殊だという自覚はある。

 貴族に教えて貰ったなどという荒唐無稽な話が受け入れられないのも当然だ。


 だが事実なのだ。

 確かにホワイトは貴族に教わった。

 勉学も、それ以外・・・・も。


「それに実技でも不正をしたな。言え、一体どのような違法アイテムを使ったのだ」


 どうやら実技でも不正を疑われてしまっているらしい。


「(はりきりすぎてしまったのが失敗だったかな)」


 あまりにも強すぎる魔法を使ってしまったがゆえに、自分で発動したのではなく違法アイテムの力を借りたのだと疑われてしまったのだろう。


 だがこちらに関しては弁解が可能だ。

 もう一度この場で魔法を使えば良いのだから。


「違法アイテムなど使っていません。お疑いでしたら、何度でも魔法を使って見せましょう」


 自分が優れた魔法師であることを証明できれば、それに紐づいて筆記試験についても本当に優秀ではないかと考え疑いが薄れてくれるかもしれない。


 だがホワイトのその望みは叶わなかった。


「ふん、どうせまたイカサマをするつもりであろう。見る価値もないわ」

「イカサマなどしません。なんなら身体検査をしてくださっても構いません」

「しつこい! 平民は強力な魔法など使えないのだ!」

「(何故そんなあり得ない断言が出来るんだ?)」


 平民が強力な魔法を使える訳が無い。

 そう思い込んでいるのなら理解は出来るが、平民は強力な魔法など使えない、と断言していることに強い違和感を覚えた。


 平民であっても優れた魔法師はこれまで何人も世の中に出現していたというのに、どうしてそのようなことを言い切れるのか。まるで、そうでなければならないと強引に決めつけているかのような不自然さ。


 ホワイトが疑問を抱いたのを察したのか、学園長と、そして近くに座る二人の老人が醜く顔を歪ませた。


「魔法は貴族のもの。薄汚い平民風情が触れて良いものではない」

「貴族の血筋と誇りこそが魔法を使う資格なのだ」

「平民の魔法師など存在してはならない」


 貴族、貴族、貴族。

 ここに来てホワイトは理解した。


「(こいつら、強力な魔法を使える平民の私を排除したいだけか!)」


 貴族至上主義。

 平民をゴミ屑のように見下し、貴族こそが尊き敬われる優れた存在と信じてやまない集団。


 彼らにとって、優秀な平民など存在してはならない。

 もしもそのような存在がいたらどうするか。


 否定して、否定して、否定して、そして排除する。


 世界全体が身分制度の廃止という流れに向かおうとしている中で、それを強く否定せんとする者達。

 差別によって多くの不幸を生み出そうとしている社会の病原体。

 貴族社会を終わらせなければならないという風潮を生んだ元凶。


 愚かな存在を目の当たりにし、ホワイトはきつく彼らを睨んだ。


「おっと余計なことを考えるなよ。魔法を使おうとすればその首輪が爆発するぞ」


 しかしすでに枷が嵌められていた。

 ホワイトにつけられた首輪は、魔法発動を感知して爆発する魔法封じの効果がある。


 つまり強力な魔法を使って脱出することも攻撃することも出来ないのだ。


「連れていけ」

「はっ!」


 学園長の合図で試験官がホワイトを強引に立たせて部屋の外へと連れて行こうとする。


「(大した尋問も無しか、あるいはこれからか。どちらにしろ、貴族としての自尊心を満たすためだけに呼ばれたらしいな)」


 結局のところ、学園長室と思わしき場所に呼ばれた理由ははっきりしない。

 ホワイトの悪事を暴くべく尋問する様子もなく、貴族の方が平民よりも優れている的なニュアンスのことを言っただけ。その様子から、強力な平民の魔法使いを屈服させて貴族としての威厳を見せつけたいだけだったのだろうとホワイトは推測し、それは正解だった。


「おら、入れ!」


 試験官に連れて来られてやってきたのは、薄暗い地下の小部屋。

 外界と鉄格子で隔てられたそこは、明らかに地下牢と思わしき場所だった。


「(学園にこんな場所があるだなんて。しかもこの手際の良さ。今回が初めてじゃないな)」


 これまでも何人もホワイトと同じ目にあった平民がいるに違いない。

 そのことに気付いたホワイトは怒りを覚えたが、冷静さを失ってはいなかった。


「(この首輪を解除し、奴らの行動をつまびらかにすることはできるだろう)」


 この程度の枷など、ホワイトにとっては全く無意味なものだった。

 そして貴族至上主義の連中を捉えることも、今の実力ならば十分可能だとも思えた。


 しかしそれでもホワイトは、ここで暴れる気にならなかった。


「(私が暴れたら、魔法学園はしばらく機能不全になってしまうだろう)」


 おそらくは多くの教職員が貴族至上主義のメンバーになっているに違いない。

 彼らの罪を暴いたところで、新しい教職員を揃えてまともな学園として再開するにはどれほどの時間がかかるだろうか。


 想い人達と学園で再会出来たとしても、肝心の学園が休園状態では意味が無い。


「(私の他に人は居ないようだな)」


 魔力を使って・・・・・・地下の気配を探ったところ、自分以外に捕らえられている人は居ないようだ。首輪を使われて言いなりになっている平民が外にいるかもしれないが、彼らを確実に助けるためにも、ここで暴れるのは得策ではない。


「(仕方ない、彼女達に任せよう)」


 ここには頼りになる幼馴染達がいるはずだ。

 貴族である彼女達は迫害されることが無く、ホワイトから学園の現状を伝えることで、被害を出さずに内部から学園を変えてくれるに違いない。


「ねぇ、看守さん」


 ホワイトは鉄格子の隙間から、近くにいるであろう看守に声をかけた。

 試験官の一人がホワイトの看守役としてこの場に残っていたのだ。


「…………」


 しかし看守は全く反応をしてくれない。


「話を聞いてって」

「…………」

「聞かないときっと困るよ」

「…………」


 どれだけ声をかけても、聞く耳を持たない様子だ。


「しょうがないな。それじゃあ、今から少しばかり爆発するけれど、ちゃんと逃げてね」

「は?」

「それじゃあ今から自殺しまーす!」

「お、おい!」


 看守が気付いた時にはもう遅い。


「えい!」


 ホワイトは盛大に魔法を使い、枷となる首輪が想定されていた以上に・・・・・・・・・・大爆発を起こしたのであった。


ーーーーーーーー


「というわけなんです」

「なんと……きな臭い噂は聞いておったが、そこまで腐っておったとは」

「ライスさんが無事で良かったです」


 クラウトレウス魔法学園での話を聞いたクロ学園長とライムギ教師は、苛立ちを隠そうともせず、ホワイトに心から同情してくれた。その様子を見て、やはり二人は信用できるなとホワイトは安堵した。


「しかし魔法師封じの首輪をつけられて、どうやって脱出したのじゃ?」

「あの程度の魔道具なんて、操るのは簡単ですから」

「なんと……」

「なので普通に外して、わざと爆発させたんです。威力を百倍くらいにしましたけど」


 そのせいで、本来は首元を吹き飛ばす程度の威力しかない魔道具が、地下牢そのものを崩壊させるほどの威力を発揮してしまった。


「あの地下牢はもう使えないですし、あの威力なら私が吹き飛んで死んだとでも思ってくれるでしょう」

「しかし、それだけだと彼らは平民を虐げ続けるのではないかね」

「それも大丈夫です。信頼する人達に全てを伝えてありますから」

「貴殿が信頼する者と言うと……なるほど、それなら安心じゃな」

「はい!」


 クラウトレウス魔法学園を脱出したホワイトは、とある魔法を使い信頼できる人達へと連絡をした。彼ら彼女らにより、魔法学園は近いうちに浄化されることになるだろう。


「ということで、向こうは任せちゃったので、私は私でこちらの魔法学園に入学出来ないかなと考えてここまで来ました」

「なるほど。そうじゃったのか」

「それでは、教師として来て下さるのでしょうか」


 元々クラウトレウス魔法学園に通う予定だったけれど、予定変更してサンベール魔法学園に通うつもりだったのならば、少し形は違うけれど教師としてのオファーを受けてくれるのではないかとライムギ教師は考えた。


「そうですね……」


 ホワイトとしても、平民である自分を差別しない教師陣がいるサンベール魔法学園で働くことに問題は無い。しかもある程度自由に行動できるように便宜を図ってもらえそうなことを考えると破格の条件だ。


 しかしそれでもすぐには頷けなかった。


「物凄い好条件を頂いているにもかかわらず非常に申し訳ないのですが、一つ条件を追加してもよろしいでしょうか」

「条件ですか?」

「なんじゃ?」


 それはホワイトがサンベール魔法学園に通いたいと考えた一番の理由。

 クラウトレウス魔法学園で再会するという約束を果たすために必要な絶対条件。


「生徒兼教師はダメでしょうか?」


 あくまでも生徒でなければならない。

 それこそが、彼女達と再会するための必須条件であったのだ。


「何故じゃ?」

「私はクラウトレウス王国の魔法学園である人達と再会するという約束をしているのです」

「ほう……なるほどなるほど。学園交流会か」

「はい」


 クラウトレウス魔法学園とサンベール魔法学園がお互いの魔法技術について競い合う魔法学園交流会。会場は隔年ごとにどちらかの学園が選ばれる。それに生徒として参加し、クラウトレウス魔法学園で開催される交流会に参加して生徒として彼女達と再会する。


 ホワイトはそのためにサンベールここまでやってきたのだった。


「構わん構わん好きせい」

「ありがとうございます!」


 学園長はホワイトの申し出に許可を出した。

 これで約束を果たすことが出来そうだ。


「そこまでして再会の約束を守ろうとするだなんて、律儀じゃのう」

「何を言ってるんですか学園長。とても素敵じゃないですか」


 学園長とライムギ教師の間で温度差があるけれど、こういう恋愛につながる話は女性の方が食いつきが良いのだろう。


「ふぉっふぉっふぉっ、ワシは別に否定などせんよ。むしろ羨ましい青さじゃ。しかし貴殿はどうするつもりじゃ。四大辺境伯令嬢・・・・・・・に想われているのじゃろう。全員を娶るというのは、いくら貴殿でも非現実的じゃろう」

「そんなところまで知られてるんですね……」

「彼らが堂々と自慢しておったよ。娘に相応しい自慢の男がいるとな」

「あはは……」


 そう、ホワイトが約束をした相手は、クラウトレウス王国の四大辺境伯と呼ばれる大貴族の令嬢だった

 いくらホワイトが優秀な平民だとしても、同じ国の複数の権力者の娘を嫁にするだなど、この社会の常識ではありえない。


「私は彼女達に相応しい男になる。それだけです」

「ふぉっふぉっふぉっ、気持ちの良い男じゃのう。しかし、それだけ、と言われても具体的にどうするか、考えておるのか?」

「はい、彼女達のご両親から課題を出されていますから。まずはそれをクリアしようかと」

「課題? 聞いても良いかの?」

「構いませんよ」


 ありえないことを成し遂げるには、それ相応の成果を出さなければならない。

 単なる優秀な平民では無く、この人物ならば仕方ないと誰もが納得してくれるような人物にならなければならない。


 そのために彼女達の親はホワイトに課題を出したのだった。

 この課題をクリアしたのなら、自分達の娘でハーレムを作っても良い、と。




「世界最強になること。世界的な名声を得ること。世界中から信頼を得ること」




 確かにこれほどの人物ならば、何人を娶ろうと文句は言えまい。

 むしろ各国から差し出される可能性すらあり得るだろう。


 しかしこれらを為すのは並大抵の努力では無理だ。


 それにも関わらず、ホワイトの口ぶりからはそれが無茶であるような雰囲気が感じられない。

 むしろ絶対に達成するのだという強い意思すら感じられる。


 その静かな迫力に学園長とライムギ教師が思わず押し黙る。

 そんな彼らに向かってホワイトはもう一つ、最後の課題を伝えるのであった。




「彼女達を心から愛し続けること」

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