あるコンビニ店員の話

@potetpo

第1話

自動ドアが開く。


「いらっしゃいませー」






 店員はおにぎりやサンドイッチ、弁当などに値引きのシールを貼っている。もうすぐ午後6時である。値引額はその商品の値段によって左右される。200円以下なら20円、500円なら60円といった具合である。これがなかなか億劫だ。おにぎりだからといって値段が統一されているわけではない。そのため、商品ごとに値段を確認しなければならない。


 棚にある商品すべてチェックするのに要する時間は、大体20分。要領がいい人は5分くらい早められそうなものだが、そこまでのモチベーションはこの店員にはない。






 後ろを確認すると、商品を手に取って会計をしそうな客がいる。作業を中途半端にする気持ち悪さを抑え、カウンターの脇の開閉扉をあけ、レジへと向かう。








 この客はビールとチューハイのロング缶、そしてつまみを一品買っている。服装はスーツでネクタイは緩まっている。時計はセイコーの真ん中くらいのグレード。一般的なサラリーマンといらすとやで検索したら、こんな感じの人が出てくるだろう。




 そして店員は定型文を投げる。


「袋はお付けしますか」


「・・・お願いします。」


「ポイントカードはお持ちですか」


「・・・あっ大丈夫です。」


少しレスポンスが遅いのが気になる、それもそうだろう。この男性はレジ脇のガラスケースを見ている。少し迷いつつ


「焼き鳥のもも塩をお願いします。」




店員は心の中で舌打ちをする。他の総菜と違い、から揚げや焼き鳥は他の総菜と異なり、レンジで温める必要があるからだ。帰ってすぐ晩酌をするであろうこの男性は温めを頼む可能性が極めて高い。


「こちら常温の商品となっておりますが、温めはいかがなさいますか」


「お願いします。」


レスポンスはかなり良くなっている。


「お会計は987円になります。」


「ペイペイで」


バーコードをスキャンし、やたら音量の大きい決済音が流れる。そしてその間にレシートを渡し、袋にビールとチューハイを詰める。つまみを入れる前に後ろでレンチンが聞こえたので焼き鳥を取り出し、テープで止め袋に入れ、その後おつまみを入れる。中身はぼんじりである。こちらは温めなくてよかったのだろうか。まあいい。これも同様に袋に入れる。


 そして最後の問答だ。


「お箸はお付けしますか。」


「お願いします。」


男性は少し笑顔を作って返答してくれた。袋に割り箸を入れ、取っ手を引き延ばして取りやすいようにする。受け取った後は頭を下げてお客様に対し、お礼を言う。


「ありがとうございました。」


やまびこで他の店員も同じ言葉を発する。ドアから車へ戻るお客様を見送り、億劫な作業へと戻る。

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