055 頼み事
いいとは言ったものの、実際何をするかは考え物だ。
「うーん。どうすっかなあ」
策略っぽいことは苦手なのだ。壊したり殺したりすることだったら楽勝なのになあ。
「実は今、皇女様は謹慎処分を食らっていまして」
「それも例の黒幕の仕業か?」
「はい。我が国のトップである六大臣のうちの一人、ウィラー⦅貴⦆です」
「その貴ってのはなんだ」
「階級ですよ。六大臣にはそれぞれ違った呼び名がつくんです」
「面倒だな」
「そうですね。話を戻しますが、僕としては雪谷の撃退のみではなく皇女様の謹慎の撤回も求めたいところなんです」
「……」
「単刀直入に言います」
「……」
「ウィラー⦅貴⦆を脅していただけませんか?」
あーやっぱり! そういう面倒なことを言うから嫌だったんだ!
「わかったよわかったよ」
「ありがとうございます、師匠。優しいですね」
「優しくなんかねーよ」
優しかったのならば、こんな商売はやっていない。
「優しいのはお前だよ、コリン。妹のみならず、皇女様にまで手を差し伸べようとするなんて」
「僕にとって彼女はただの皇女以上の価値があるんですよ」
「?」
「あの人の前では、僕は土蜘蛛ではないのです」
それが嬉しいのですよ、とコリンは笑った。
「そうか」
散々この少年のことを狂っているだとかおかしいだとかって表現した僕だったが、その時ばかりはさすがに、コリンも年相応なんだなと思った。
自分の本当の姿を見せられる相手がいることを喜ぶくらいに、彼が少年で居れていることが嬉しかった。
だって彼は、僕の弟子だから。
「もし僕が彼女に会いたいって言ったらお前は反対するだろ?」
「僕が積極的にその面会を行おうとはしないでしょうね」
「だよなあ」
少し会ってみたい気持ちもあった。
「師匠は、奇麗なものが苦手でしょう」
「まあな」
「あの人は美しい純粋なんですよ」
「純粋だなんて……そんな人間がいるのか」
「もしも、自分を殺そうとした人間を愛せたのなら。それを純粋と呼ばない理由がないでしょう」
「お前が面会を拒むのは、僕がその美しさを壊しかねないからか」
「いいえ」
「?」
「あの人が残酷を知ってしまえば、それはもっと取り返しのつかないことでしょう」
「わかるように喋ってくれ」
「無垢な残酷、と言えばいいのでしょうか。例えば復讐心に駆られた幼子のように、混じりっ気のないたった一つの感情で左右されるような人です。そんなあの人が、師匠のように躊躇いなく人を殺す存在を知れば、その先は見えたようなものでしょう」
いや全然見えないけど!?
「あえて解りやすく言うのなら、あの人には絶大な求心力があるんです。その無垢さゆえに、多くの人が群がり集まる。だから、彼女が残酷な結末を望めばそれが安易に叶ってしまう。彼女自身が大きな力を持っているものだから、彼女は自分の知るすべての方法で自分の願いを叶えることができる——たとえそれが、僕ら仲間の望んでいないことでも。そんな結末が訪れることのないよう、僕は彼女を保護しておくことを望むのです」
……。
前言撤回しよう。やっぱりこいつは頭がおかしい。
そうだろ。だってコリンは、『自分のお気に入りが自分の気にくわない動きをするのが嫌だから檻の中に閉じ込めておきたい』、そう言っているんだから。
「つまりなんだ、僕はそのウィラーとやらをちょっと脅して、もう皇女に手は出さないと誓わせればいい訳か」
「そうですね。お願いできますか?」
「しょうがねーな。あ、お前と雪谷の戦いは見せろよ? ちょっと気になるからさ」
「承知しました」
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