054 裏で蠢く影
「雪谷の連中は、皇国の上層部に雇われたらしいんですよ」
結局僕のサンドイッチを丸々一つ奪って食べながら、コリンは言う。
「国が暗殺屋を雇うなんてことがあっていいのかよ」
「正確には
「より悪いじゃねえか」
「六大臣筆頭、ウィラーと言います」
六大臣というのは、確か国皇の行う政治を補佐する役割のものだ。合計六つの氏族がそれぞれに役割を持って議会を組織し、皇国の政治を独占しているという。実質六大臣の力は国皇を上回り、力を持たない国皇のもとではほぼ六大臣が政治を行うこともあるらしい。
「今の皇様は皇族ではないですからねえ。やはりどうしても六大臣の奴らが力を持ってしまうのですよ」
「それがどうしてお前と
「巡り巡ってあなたの所為ですよ?」
「どういうことだ」
「あなたは僕にどんな名前を与えたんですか」
「
「そうですね。僕は今、一人にして一個師団程度の戦力はあります」
「咲家の奴はどれくらいなんだよ」
「大隊くらいですかね。保証できるほど強くはありません。——今の時点では」
「今の時点ではっつーのが気になるな。でも、それ自体はお前の望んだことだろ? 妹ちんのために強くなりたいってゆー」
「その目的は今も大きく変わってはいないのですがね。問題は、僕が皇女様の組織する『部隊』に所属していることなのです」
「部隊?」
「死んでいい人間を集めた少年兵たちが組織する団体です。僕は皇国に嫌われているんですよ」
「皇国に嫌われている? 少年兵?」
「僕くらいの歳の男女十二人が所属する集団です。王国を相手取って戦ったり地球へ行って魔力を回収したりしています。世界で最も悲観的になるべきことがあるとしたら、その組織を作ったのが皇国だということでしょうね」
国ぐるみで組織する戦争。戦争に駆り出されるのは成人も済んでいないような少年兵。たった十二人で一つの国を相手取れ、なんて——
「馬鹿げているだろう。王国の方は国ぐるみで戦争を組織しているというのに」
「そうですね。王国の方、とやらはよくわかりませんが。どうやら六大臣の目的は、皇国と王国の間で戦争を起こし、なおかつ皇国側に負けてもらうことらしいです」
六大臣が、か? 六大臣は皇国の人間だろう? 六大臣が王国側に味方するなんてことはないはずでは。
「内通、なんてこともあり得ますからね。ウィラーはおそらく王国とつながっているのでしょう」
「ふざけた話だ」
ほぼほぼ国のトップと言っていいような人間が敵国と内通しているなんて、お話にもなりゃしない。
「しかし、僕はこちらに派遣された。そのことにどちらの国の意識も関与していないなんてことはあり得ないと思うんだけど」
「すみません、そのことはわかりません。ただ、僕の戴く皇女様は王国と手を取り合うことを望んでいます。少なくとも、戦争は望んでいません。だから——」
「皇女の望みを叶える手伝いをしろと?」
「はい」
「その皇女様って何なんだ」
「『部隊』のリーダーです」
「さっきの少年兵チームの、か? じゃあ、皇女様も死を望まれている、なんてことになるんじゃ」
「ええ、その通りです。純血の皇族は六大臣にとって邪魔なんですよ。何せ
「どこまでも胸糞の悪い話だな」
「僕は今、その皇女様のために働いています」
「へえ?
「今では、彼女に幸谷
そこで一つ、コリンは目を閉じる。
「僕を助けてくれたあの人のために働く僕を助けてくれますか? 師匠」
「いいぜ」
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