009 買い物@商店街

 少しばかり時間がたって、上から靴音がした。

「久しぶり。やっぱり僕は、君が好きだよ」

 リゼはエフソードの姿を見て笑った。

 金色の髪をかき上げたのは、青色の瞳の好青年だった。白いシャツにブルージーンズがこれほど合う人物は初めて見た。

「わざわざ呼び出したってことは、何か用があるんだろ?」

「うん。買い物に付き合ってくれないかな。君なら、ここらの相場もわかるだろ?」

「何が欲しいんだ?」

「歩きながら話すよ。たくさん買い物があるんだ」

「金はあるの?」

「少し前に臨時収入が入ったからね」

 ほら、とリゼは硝子戸を開けて手招きする。

「俺は光の当たるところ嫌いなんだ」

 金色の髪は光が当たると奇麗なのに、彼はそういうことを言う。

「でも、僕だけで買い物に行くと舐められちゃうんだよね」

「子供みたいだからな」

 緑の髪のボブに白いカチューシャ、肩の出た緑のドレス。確かに、二十を過ぎた女性がする格好ではない。

「それもあってね。美容室って、あったっけ?」

「少し離れたところに。でも、それじゃ」

「エリーを少し見ていてほしいな」

「俺が? この餓鬼を?」

「餓鬼って言うな」

 少しにらむと、エフソードはこちらを見返してきた。

「……」

 闇のような瞳だった。影というその名にふさわしい、吸い込まれそうに濁った瞳。

 ふっ、と瞳を逸らされる。

「まあいい。いつか見返りはくれるんだろうな」

「もちろん。ありがとうね」


「まず最初に、だけど。石板が売っているところって、どこ? それに書ける物も欲しいな」

「青空教室でも始めるのか? あっち。商店街の端っこだ」

「馬鹿だなあ、エリーに勉強を教えるんだよ」

「教えられるのか」

「かじった程度だけどね。初等部くらいまでなら」

 奇妙な取り合わせの僕らを、通行人が二度見、三度見していく。

 僕は、初めて来た商店街というエリアが面白くて、あちらこちらをきょろきょろしていた。

「面白い?」

 前からリゼが首を捻じ曲げて訊いて来る。

「うん。知らないものがたくさんで」

「好奇心だな。知らないものを不思議に思って、面白く思う心」

「エリーは毎日知らないことだらけだからね。羨ましい限りだよ」

「テレビを知らなかったんだろう?」

 エフソードはそれをいつ聞いたのだろう、最近リゼは事あるごとにその話を持ち出す気がする。随分気に入ったようだ。

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