第2話
前はもっといろいろやりたい事とか楽しみな事とか誰かと会いたいとかどこかに行きたいとかって言う事がもっともっとあった気がする。
遠出したくたって残念だけど、家をそんなに開けられるような状況ではない。結局ふらふらと自転車に乗って、行き慣れた場所の中で案外行かなかったところ、そんな場所をウロウロしている。
お気に入りの場所と言うのはある。
お日様のよく当たるところでみんなが楽しそうに過ごしていて、パンとかコーヒーとか美味しそうなものがちょっとあって、いろいろ売ってるようなところ……まぁ、とは言ってもどうしても身に付いてしまった節約癖っていうのはあるもので、マイタンブラーに家で作ったカフェラテ……といってもインスタントコーヒーを牛乳で割った物だけど、それをデイパックに詰め込んで。それとちょっとお菓子も詰め込んで。
と、これはあくまで食べたいものが見つからなかった時の保険。コーヒーだけを買って飲むのはなんだか気が乗らないから。
そうして街を走ってると良く美味しそうなパン屋さんカフェを見つける。
本当はその中でランチとかモーニングとかコーヒーとサラダと好きなパンを食べたりしてゆっくりしてみたいのだけれど、どうしたって1人だとちょっと敷居が高いというか、時間的にも気持ち的にも余裕がないから結局そういう所には入りづらい。
だからちょっと高級なフランスパンを買って川沿いのベンチに座ってなんとなく行き交う人々や川を通る屋形船を見たりして、タンブラーのコーヒーを飲んでフランスパンをかじる。
そう言えばフランス人が言ってた。直接聞いた訳じゃなくテレビで。
ああフランスに行ってみたい。
でね、フランスパンは出来立てが1番おいしいからまずは買ってひと口ちぎって食べるんだって。皮のパリパリしたところ、うん確かにおいしい。皮のパリパリしたところとフランスパンの中の柔らかい白い所別々に食べる。これが食パンだったらちょっと行儀が悪いし、正直食パンの耳がそんなにおいしいとは私には思えない。でもフランスパンの耳? じゃなくて皮が美味しいっていうのほんと、なんでだろうね。フランスには柔らかいパンが嫌いだから普通の食パンなんてありえないみたいなことも言っていた。
まぁ確かに食パンておいしい食パンとかおいしい食パンの耳っていうのは案外少ない。ずば抜けておいしいパン屋さん見つけて通ったこともあったけれど、だんだんとそこも人が集まるようになったり、SNSで発信されるようになって、なんだか順番待ちだったり早い者勝ちの空気だったり、普段は来ないようなおじさんたちがいっぱい来るようになってちょっと空気が悪くなっちゃった。
お店のおばさんによく相談事なんかもしてたんだけど、今じゃそんな時間も空気もないって感じで早口で挨拶したり。
それでもおばさんにはうちの事情なんかも良く相談してたので向こうから、「お母さん元気にしてますか」なんてことも言ってくれたりする。昔だったら「最近は〜」とか「実は今〜」とか「ちょっといいにくい事話なんですが〜」とか、長々と話してた。でも今は「よろしく伝えます」なんてその程度の会話しかできなくなっちゃった。
恋愛にしろなんにしろ、期待値を上げすぎると失望して自爆する。選択肢を増やすのは危機回避として重要だ。だから浮気って訳じゃないけど、他にもおいしいパン屋さんを探そうと思っていろいろ食べ歩いた。けど味はそこには及ばないのに値段だけは高いみたいなところばっかり。
なんだか病院とか受診科をぐるぐる回るやつ、何とか「ランドリー」? ラウンドだっけ? 忘れてしまったけど、しっくり来なくて梯子してしまう気持ちに人知れず共感した。
【つづく】
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