鮎川たまよのひとりごと
宮藤才
第1話
私は気づいてしまった。
去年私が買い物した物。
全部詳細に覚えてると言うわけではないが、ほとんどの物を空で言える。牛乳、卵、パン、お米、牛肉、豚肉、鶏肉(ささみ胸肉手羽)、納豆にチーズ。
あとは野菜。かぼちゃとかじゃがいもとか青菜とか。時々贅沢してお刺身。たまにビールと白ワイン。値段のこともあるかもだけど、私が過去買った赤ワインはなんだかウスターソースみたいな味がして、お好み焼きか焼きそば以外には合わなくて今はお休み中。そのうちまた飲みたくなるかも。
焼酎も一時期はまったけど、やたら酔いがまわるのが早くてやめた。5回ぐらい買ったかな。あとは外食はほとんどしなくて、行くのはせいぜいカフェチェーンと時々無性にたべたくなるハンバーガー屋さん。
スターバックスとかバーガーキングとか各2回ずつ位。もっと?
あまり外出もしなかったから友達と会ってご飯、なんていうのもない。飲み会は2回位した気がする。
友達と集まって飲むのは楽しいけれど、帰宅して現実に戻るとなんとなく気が滅入った。翌日もなんていうか、気が上がらない。なんでだろう?
あとは何度か下着を買い替えた。
あ、ガムテープと玉紐も。新聞を古紙回収に出すのに使うから。
去年だったか一昨年だったか今年だったのか、この3年位の記憶はひどく曖昧。取り立てて人生のイベントもないからか時間の壁が溶けてしまって、時系列がふやふやだ。曖昧なのに、自分の買い物を覚えてるというのは、この3年同じようなものしか買ってないということだ。
これが今の私。
そしてこれが今の私の人生。A4用紙1枚分も埋まらない。この1年間でやった事といえばものの10行位で埋まってしまう。きっとこのA4用紙1枚の紙を破る位に、いやこの1枚の紙を破けば、今の私自体が消えてしまうんじゃないかって言う位。そんな存在だと感じる。
子供の頃は人ひとりの命は地球より重いなんて本気で信じていたけれど、実際はコピー用紙1枚程度のものだ。これが現実。少なくとも私にはそう。
結局よくも悪くも日々大差ない。
全てがルーティンワークのような生活を送っているのだ。だから、1日1つでも何か昨日と違うことをしようとするけれど、どうしたって行き慣れたところに行ってしまう。時間もお金も自由にできる時間が限られているのだから、その中で効率的に動けるとすればどうしたって似たようなものになる。
だからせめて通勤手段を変えるとかいつも自転車で行ってるところを歩いてみるとかその程度の変化が良いところだ。きっとみんなもそんなの自分のやり様だ、怠けてるだけなんじゃないかって思ったりするんだろうな。
私もそう思う。
そんな中でも少し変わってきたことがある。
よく空を見るようになった。龍雲探しとか夕焼けとか。
それから月。三日月とか満月、十五夜とか十三夜とか月の力とか月光浴とか。あと月の光を水に浴びせて飲むムーンウォーターとか。
青い瓶に水を入れる。蓋は鉄製じゃなくて、コルクの蓋が良いとかっていう話を聞けば、そんなモノを集めたりして。それで日常が変わったかと言えば、そんな気分にもならない。なぜかと言えば、やっぱり私は自分の頭の中にある範囲のところにしか行くことが出来ないし、ずっと行ってなかった所に行ったとしても、その時以上の感動が蘇るって訳でもない。
新しい人と出会って話したりすれば、その時は楽しいなと思うけど、10分20分話してればやっぱり何か違うなと思っちゃう。結局何がしたいのか何が楽しいのか何が欲しいのかちょっと分からない。
ずっと空ばかり見てて発見もあった。すごくきれいな夕焼けが川面に写ってるのはとても綺麗だった。時々魚の跳ねる波紋が広がったりすると、もっと綺麗。
こんなことばっかり話してると、なんとなく昔アニメで見た赤毛のアンの第1話を思い出しちゃう。確かアンが馬車に揺られて、マシューと一緒にグリーン・ゲーブルズに行く道中で、アンが目に映るもの全てがいかに美しいか、自分の生い立ちは嫌いじゃないけど、良い思い出も取り立てて無かったの、なんて話をする。
【つづく】
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