第7話 マイナーなアニメ、出会い
俺と美優が出会ったのは、高校の入学式の時だった。廊下ですれ違った美少女は、一瞬にして俺の視線を奪った。歩く姿は淡々としていて、清楚系の美少女という印象だった。今ではそんなことはないのだがな。
ふと床に何かが落ちているのに気づいた。これは!初回限定盤DVDを買わないと手に入らない特典のハンカチ。なぜあの清楚系の美少女がこれを?まさかアニメが好きなのか!いや、それはないだろうと思ったが、興味が湧いた。
俺は、話すチャンスを伺うために声をかけようとしたが、そんな勇気がないことがわかっていた。しかし彼女の様子がおかしくなったのがわかった。スカートや制服を触ったりしているうちに顔が青ざめていく。「ちょっとごめん。先生に呼ばれてたんだっ」と理由をつけその場からいなくなった。
俺は彼女と再び会うため、先回りしてその場に向かった。
「ない」と彼女の口からこぼれ落ちる声が聞こえた。大事なものがなくなるのは嫌だよな、俺だって推しのグッズを無くしたら泣きたくなるよ。俺はさりげなく近寄り、声をかけることにした。
「あの、これ落としたよな。ハンカチ、初回限定盤のDVDを買わないと手に入らないやつ」
「えっ?マイナーなアニメなのに知ってるの?さてはオタクだね」
「ああ、アニメは好きだけどな、ラノベとか特撮も」
「あなた、名前は?」
「えっ、葛城拓哉。同じ一年だよ」
「そうですか。私は田辺美優と申します。ハンカチありがとうございます。それと今日の放課後に時間はありますか?」
「大丈夫だけど」
えっ?ラブコメ展開ルート突入か?やばくね、ハンカチ拾っただけでこの展開はもしかしてもしかすると。放課後が待ち遠しいなんて思ったのは初めてだ。
放課後、俺は美少女との待ち合わせの場所に向かった。先に待っていたのは田辺美優だった。立っているだけで、デッサンのモデルになりそうだ。
俺が来たのに気づくと、彼女はニコッと笑い手を振ってくれた。
「ごめん、待たせたかな」
「大丈夫ですよ。それより…」
美優はキョロキョロと周囲を見渡すと、こっそり耳元で囁いた。リアルASMRだ。
「ここでは話しにくいので、歩きましょう。この先の道を曲がってください。私はあなたの後からゆっくり追いかけます」
「ああ、わかった。じゃあ後で」
俺は自然と帰り道とは逆の方向へと歩き出した。道を右に曲がり、しばらく待つと美優が追いついてきた。
「ふぅ」と美優は息をついてから口を開いた。
「あのさ、あのさ、拓哉くん、アニメ好きなんだね! いやぁ、よかった。うちの学校の人には言えないから、ほら私、清楚系で有名になっちゃってアニメの話とかしたくてもできないし、困ってたんだよね。あ、メール交換しようか」
いきなりのマシンガントーク。これが田辺美優の本当の性格か。
「ああ、いいよ。それと、拓哉でいい。特に拾ったハンカチのアニメが好きだ」
「私も大好き! あのシーン、いいよね。ヒロインが笑顔でさよならって言った後に、主人公が抱きしめるシーン」
「おお、名シーンだね。それもいいけど、俺はハンカチを渡すシーンが好きだ。そのハンカチをずっと大事に持つヒロインもいい」
「なるほどぉ。私たちは同盟を組む必要があるようだね。同士よ!」
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