第6話 ハンカチは初回限定盤

 俺は内心で「まじか、まじか、着せ替えゲームじゃないかあああっ!」と叫びながらも、女性の服売り場に足を踏み入れた。下着売り場が視界に入るが、見ないように見ないようにと自分に言い聞かせる。


「これか?あれか?うーん……シンプルに黒ジーンズに白いフリルのついたワンピースでもいいかな、それとも俺とお揃いのコーデにするか」と考えながら、冷房が効いていることを考慮して、ジーンズジャケットに黒と白の横ストライプのTシャツ、カーキ色のジーンズでアウトドア風にするか、青の長袖シャツと灰色のTシャツに白いミニスカートのコーデにするか迷った。結局、俺は十五分くらいでコーデが決まったが、美優はまだ選んでいるようだ。


 しばらくすると、美優が持ってきたのは黒のジャケットと襟のないクリーム色のシャツにブラウンのジーンズだった。センスがいいのかどうかはわからないけれど、初めて女子に服を選んでもらえたことでテンションが上がった。


 俺たちは互いのサイズを再確認し、「美優のは内緒」という約束のもと、試着室で選んだ服を着てみることにした。


「どうよぉ?似合うっ?」


「おおっ、良い!」


 美優の番だ。彼女が試着室から出てくると、まるでモデルのランウェイのように見えた。それくらい、俺の選んだ服がよく似合っていた。


「うーん、買おうかなぁ、このコーデ?拓哉はどう思う?」


「そうだな。財布と相談してくれ。あと、欲しがってたアニメのフィギュア、来週出るぞ」


「なんですとぉ! 買えませんなぁ服、残念だね。でもまた来れるもんね」


「ああ」


 この時の美優の顔がどこか寂しそうに見えたのは、俺の気のせいだろうか?アニメのフィギュアを理由に、俺が選んだ服を買ってもらえなかったことが少し残念だった。もしフィギュアを買わなければ、俺の選んだ服を買ってくれていたのかもしれないな。


「次は拓哉の番だよっ。私のコーデの良さに驚くが良い!」


「おおぅ、歌舞伎役者みたいなポーズ取らなくても良いだろ」


 今度は男性の試着室に移動した俺たちは、美優の選んでくれたコーデを試すことにした。試着室の中で鏡に映る自分を見ながら、俺はモブキャラのようだと思った。だが、美優が選んでくれた服を着たことで、自分の雰囲気が少し変わったように感じた。


「いやーきっと似合うと思うよ。拓哉。私の目に狂いはないからねぇ」


 服を着た俺とデート中に着ていた服に大きな違いがあることに気づいた。今着ている美優に選んでもらった服は、美優の隣を歩くにふさわしいような服装だった。服装を変えるだけで、雰囲気がガラリと変わる気がした。気のせいかもしれないけれど。


「美優、この服。良い。すごく良いよ!」


「でしょおぅ。どう?少しは私の隣がふさわしくないと思う気持ちは消えた?」


 お見通しのようだな。さすがに長い付き合いではないなと思った。

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