第4話 ドハレンチな兄貴はいつもださい。

 眠れそうにないな。ラノベでも読むかな今日はこれにしよう。

『僕とあなたの運命の契約-その証は永遠に-』

 出来損ないモブと呼ばれた主人公、田原京介35才は、子供がトラックに轢かれそうになったところを助けるつもりが足を挫いてしまい、他の車にはねられて亡くなるというところから始まる。異世界転生系だ。


 この出来損ないという言葉が、自分に刺さってくるような感じがしている。俺も学校ではモブキャラ扱いだし、全然目立たないしな。でも、美優がいるだけで俺の世界は少しだけ輝いている。そんなことを考えながら、俺はページをめくり続けた。


 次の日、俺は待ち合わせ場所に三十分も前に着いてしまった。周囲を見渡すと、人々が行き交う中、待ち合わせ場所のカフェが目に入る。緊張で手汗が滲む。


「メールをしてみるか。」


 ー今どこ?

 ーいるよ。

 ーまさかのアニメのTシャツ着てくる予定?

 ーうん、まあねぃ。私だと学校の人にバレてしまっては、正体を明かさないといけないからね。クックック。

 ーどこかの怪盗かよ。

 ー先に着いてるから待ってるよ。

 ーはいよー。


 連絡してから十五分後。時間を持て余し、スマホをいじりながら待っていた。


「お待たせぃ」


 ふとスマホから顔を上げると、そこには、アニメのTシャツを着こなしているモデルのような美少女がいた。彼女は青ジーンズに白スニーカーを合わせたシンプルな格好をしていて、黒いキャップを被っていると一見誰だかわからない感じだ。カフェの入り口で微笑む彼女に、周囲の視線も集まる。


「おおっ」


 思わず声を上げてしまった。理由は、俺の好きなアニメ『ドハレンチな兄貴は、いつもダサいけど時々かっこいい時もある』通称『兄ある』のTシャツを着ていることだ。ヒロインの卜部麻弥のデザインで、金髪、幼女、メガネ属性を三コンボ備えたキャラが描かれている。俺がそのアニメを勧めたら、彼女はどハマりし、グッズを大量に買ったと聞いていたからだ。胸の中で温かい感情が広がる。


 彼女は微笑んで近づいてきた。


「どう?似合ってるぅ?」


「最高だ!思った以上に似合ってる!」


 彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめたが、その笑顔は嬉しそうだった。近くのテーブルに座ると、少し照れた様子で続けた。


「ありがとう、着てよかった。拓哉、このアニメ好きって言ってたもんね」


「ああ、なんといっても、麻弥ちゃんのピースして笑顔を嫌いだった兄に向けるシーンが好きだなぁ」


「私もそのシーン好きっ。やっぱりわたしたち相性がいいね」


「何言ってんだよ、恥ずかしいだろっ」


 がやがやと他の人の声が聞こえてくる中、美優の恥ずかしい発言に思わずドキッとしてしまった。瞬間的に沈黙が訪れ、俺たちは下を向いてしまう。そのとき、ちょうど注文していたアイスコーヒーとクリームソーダが運ばれてきた。


「飲もうか?」と俺が言うと、美優は微笑んでうなずいた。「初デートに乾杯ってのも変かもしれないけど」と俺が言うと、二人で軽くグラスを合わせた。


 美優はクリームソーダのバニラアイスが食べたかったようだ。しかし、バニラアイスは予想以上に大きく、コップの端から掬って食べ始めた。メロンソーダを飲みたそうにしていたが、それどころではなさそうだった。


 俺は店員さんに頼んで取皿をもらい、美優に渡してアイスをサルベージしてもらった。彼女は嬉しそうにメロンソーダを一口飲み、「あああっ、この炭酸と溶け出したバニラとメロンのコラボレーションがたまりませんなぁ」とおっさんのような口調で言った。


「食レポ、どうも」と俺が言うと、美優は目を輝かせて尋ねた。「ねぇねぇ、どうだった私の食レポ、テレビ出れるかな?」


「テレビは無理やて」と俺は笑いながら答えた。


「そうかぁ」と彼女は少しがっかりした様子だったが、すぐに元気を取り戻して言った。「でさ、この後は映画館にゴーでいい?」


「ごぅ」


「りょうかぁい」

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