第3話 君と繋がって行く魔法は無限大
その時、「お風呂が沸きました」というアナウンスが流れた。
「えっ?最後なんて言った?お風呂が沸いた音で聞こえなかったんだけど」
「なんでもなーい」
俺は、美優の手作り肉じゃがを食べ終わった後、新作のライトノベル『異世界で君と繋がっていく魔法は無限大です。』を渡された。「これ、文庫大賞を獲った作品なんだけど、ぜひ読んで感想聞かせてね。今日の夜に絶対ね!返事はメールでいいから」と美優に強引に渡されてしまった。俺は家に帰ることにした。
「わかった。じゃあ明日な」
家に着いた俺は、早速自分の部屋に入ってライトノベルを読もうとするが、一枚の紙が挟まっていることに気づいた。そのページを開くと、映画の前売り券が挟まっていた。これは俺に、一緒に来いということか?特撮映画だから一人じゃ恥ずかしいのかもしれないな。確か来週の土曜日だった気がする。メールをして確認してみよう。
-お疲れ。映画の券が挟まっていたけど、俺に渡すつもりで入れたのか?
-あ、気づいたね。一緒に行こうよ。一人じゃ恥ずかしいから、ほら、デート。私とデートだよ、嬉しいでしょ?
-まあ、嬉しいけどさ。
-ふふふっ、ならよろしい。それじゃ、楽しみにしてるね。おやすみ
-ああ、おやすみ
美優とのデートが近づくにつれ、俺は妙にソワソワしていた。クローゼットを開けて、「これがいいかな?」とシャツを選ぶ。母親に「デートの服ってどんなのがいいと思う?」と相談すると、母親は笑いながら答えた。
「拓哉、そんなの気にするタイプだった?でも、清潔感があっておしゃれな感じがいいんじゃないか?」
「そうか…じゃあ、これにしようかな」と俺は服を選び直す。
次の日の放課後、学校を出た後と出る前を動画で撮ってビフォーアフターしたい気分だ。学校内では、学園一の美少女として有名な美優に告白する男子が絶えないが、「ごめんなさい。私ではあなたに釣り合わない」と丁寧に断っている。
そんな彼女と一緒に帰るところを誰かに見られたら、完全に俺は男子の敵になるだろう。
学校での美優の口調は「さすがです。そうなんですね」とお嬢様風だが、俺と帰る時は普通のオタク女子に戻る。
「今日もおつー。拓哉」
「お疲れ、美優。今日も告白された?」
「うん、でも断っちゃった。だって、あの人アニメや特撮とか見ないんだもん」
「そうなんだ、アニメ見ないとアウトか」
「当たり前でしょ!アニメは私の命よ」
俺たちは歩きながらアニメの話で盛り上がり、自然と笑顔になる。
もし俺みたいなモブとは違ってイケメンで、アニメも詳しくて、特撮も大好きな人が現れた時、美優はその人と付き合ったりするのだろうか?
「拓哉、聞いてる?見た?いせま」
「ああ、見たけど、最後の描写とか俺の剣で全てを消し去るっていうセリフ、あとハーレムをつくって、モテモテになるところがよかったな」
「へー。ハーレム好きなんだ。拓哉ってすけべだね。まっ、私も好きだけどね。そういう展開」
「そういえば」
「いいよ、拓哉から」
「美優から言えよ」
「明日の映画、楽しみだって言おうとしただけ」
「俺もそう」
ははっと俺は笑い出し、美優も俺につられるように笑い出した。
俺は、家に着くと明日の持ち物チェックをした。まず、ポケットティッシュとハンカチそれから、折りたたみ傘と財布。こんなものか?服は大丈夫だと思う、多分。鏡を見ながら髪を整え、「よし、これで完璧だ」と自分に言い聞かせる。
明日はデート。美優と初めてのデート。やべぇ今から緊張して眠れなくなっちゃった。これじゃラノベ主人公だよ。女の子とのいきなり映画館デートなんてさ。俺は息を吸う。そして吐く。美優の笑顔が脳裏に浮かび、さらに緊張が高まる。
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