第23話 再会②

 微笑みを浮かべるテレーディアさんが、前方に手をかざすと。

 光の粒を散らしながら、大きい鏡のようなものが現れる。

 わたしはゆっくりと、それを覗き込んだ。



 ――――百合葉さんが、いた。



 どこかのカフェで、二人の女性と楽しそうに笑い合っている。

 

 わたしが知っているよりも、随分と大人びた顔付きをしていた。

 ショートボブだったはずの髪は、肩ほどまで伸ばされていた。

 耳には、きれいなピアスが付けられていた。



 でも……笑い方は、あの頃のままだった。



 優しくて、朗らかで、温かい笑顔。

 口角の側にできるえくぼも、そのままだった。


「…………百合葉、さん」


 口から、彼女の名前が零れた。

 百合葉さんは、わたしの方を見ることはない。

 ただ、友人であろう二人と、楽しそうにお喋りを続けている。



 …………けれど、今のわたしには、それだけで充分すぎた。



 鏡の中の世界が、切り替わっていく。


 その度に、懐かしい、大好きだった人たちが映し出されて……気付けばわたしは、ぼろぼろと涙を落としていた。


「…………皆、元気だったんだ、よかった、」


 わたしの言葉に呼応するかのように、また鏡の中の世界が変貌する。


 そこにいたのは……お母さんと、お父さんだった。


 ――――二人は、お墓の前に立っていた。


 墓石には、「芦原家之墓」と書かれている。

 直感で、誰のお墓かわかった。

 が、あそこで眠っているような気がした。


 お母さんが、口を開く。


「…………美南は今も、幸せにしているかな」

「きっと、そのはずさ。あの子は本当に、優しい子だったから。だから、大丈夫」

「そうだといいけど……ほら、あの子、抜けているところもあったじゃない」

「まあ、それはそうだけどさ」


 二人の会話に、また、涙が溢れた。


 気付けばわたしは、鏡に手を添えながら叫んでいた。



「幸せだよっ……! わたしね、すごく、幸せだよ! 素敵な人たちに囲まれて、すごく優しくしてもらってるの! それにね……大好きな人も、できたの! 本当に、大好きで……大切で、ずっと一緒にいたいって心から思えるような、そんな人と、出会えた! だから、だから……」



 ……心配しなくて大丈夫だよと、嗚咽を漏らしながらかすれた声で言う。


 わたしは暫くの間、もう話すことのできない両親の姿を見つめていた。


 ――――やがて、鏡は光の粒と共に消えていく。


 テレーディアさんが、わたしの背中を優しく撫でてくれた。


「サクレーミュ……そろそろ、帰らなければならない頃です」

「…………うん、ありがとう、本当にありがとう、テレーディアさん」

「いえ。……貴女にこれを見せることができて、よかった」


 テレーディアさんはそう言って、わたしを抱きしめてくれる。

 濃い、花の香りがして――――



 ――――わたしの意識は段々と、薄れていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る