第20話 花雹祭③

 目的の人物は、案外呆気なく見つかった。

 彼は三日前と同じく、噴水広場にいた。身長が高いし、フードを被っているから目立つ。

 彼もわたしに気付いたようで、微笑みながら手を振ってくれた。


「こんばんは、サクレーミュちゃん。ふふ、偶然また会えるなんて嬉しいな」

「……はい、シジェンシアさん。わたしも嬉しいです」

「本当に? 何だかあんまり、元気がないように見えるけれど」


 シジェンシアさんは、翠色の瞳を細める。

 全てを見透かされているかのようで、わたしは思わず目を逸らした。


「……そんなこと、ないです。とっても元気ですよ!」

「そうなの? ……そういえば、例の『彼』は一緒じゃないんだ」


 例の「彼」――

 その言葉が示す意味は、すぐにわかった。


 ユキミさんのことだ。


 わたしは唇を弱々しく噛みながら、ちょうどよかった、と思う。

 自分を奮い立たせて、シジェンシアさんへと微笑んだ。


「今は、一緒じゃないですけれど……すぐ、見つかると思います。シジェンシアさん、探しに行きましょう」


 わたしの言葉に、シジェンシアさんの表情が消えていく。

 あれ……と思っていると。

 シジェンシアさんはわたしの腕に手を伸ばして、わたしをぐっと引き寄せた。

 すぐ目の前に、シジェンシアさんの顔がある。


「えっ、ど、どうしたんですか!?」

「……サクレーミュちゃんって、『彼』のことばっかりだよね。そんなに、『彼』と一緒にいたい?」

「え……その、今のはそういう意図じゃなくて……シジェンシアさんとユキミさんを、会わせたかったというか」

「へえ。何で?」

「だって……シジェンシアさん、ユキミさんに、興味があるでしょう……?」


 そう告げると、シジェンシアさんは不思議そうに何度か瞬きして。

 それから、すっと口角を上げた。


「……サクレーミュちゃん、何か変な勘違いをしているんじゃない?」

「変な勘違い、ですか……?」


 首を傾げたわたしに、シジェンシアさんは「そうだよ」と微笑む。



「――――だって、僕が今興味を持っているのは、サクレーミュちゃんだよ?」



 わたしは、目を見張った。


「…………え、」


 口から、困惑の声が零れてしまう。

 シジェンシアさんは、わたしへとさらに顔を近付ける。

 吐息までもがかかってしまいそうな近さだった。


「ねえ。サクレーミュちゃんはさ、あの『彼』のことをどう思っているの? 『彼』、好意剥き出しだったよね? けれど別に、付き合ってもいないならさ……僕も少しくらい、期待していいのかな?」


 シジェンシアさんの言葉が、頭の中でぐるぐるしている。


 何で。

 どうして。

 だって、この世界は――――



「サク――――ッ!」



 そんな声がしたと思ったら、わたしはシジェンシアさんから引き剥がされる。

 振り返ると、すぐ後ろにユキミさんがいた。


「やあ。ふふ、タイミング悪いなあ」

「……サクに変なこと、していませんよね」

「あはは、してないよ? でもさ、付き合ってもないのに彼氏面なんて、正直重たいんじゃないかな?」

「………………」


 ユキミさんは何も言わずに、シジェンシアさんを睨み付ける。

 それから、わたしの右手を取って、早足で歩き出した。


「えっ……ユ、ユキミさん!?」


 引っ張られるわたしの言葉にも答えずに、ユキミさんは歩き続ける。

 わたしはシジェンシアさんに小さく頭を下げてから、ユキミさんとどうにか歩調を合わせた。

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