夜討ち

 月も隠れる夜――


 三つの人影がごつごつした海岸線を進んでいた。アハティンサル領南方にある港。そこからさらに南に進んだ場所である。

 通常なら人が通わぬ場所であり、ペルフェク島に帝国が棲みついてからは、ますます人が近付かなくなっていた。


 だからこそ――


『ありました。ヘーダはすっかり観念していたようですね』


 帝国と連絡を取るための小舟を、ヘーダはここに隠すことが出来たというわけだ。シショウはヘーダの証言通りの場所に、引き上げられた小舟を発見する。


『使えそうか? ……ってまぁ、浮かべてみないとわかんないか』


 と応じたのはクーガーだ。そしてさらにキンモルが続く。


『使えたとして、島まで行くことが出来るのかどうか……』

『それは大丈夫っす。櫂もあるし、実際島までの距離はそんなにありません。それに満潮ですんで――それを見越して今来たわけですから』


 この三人は今からペルフェク島に侵入する段取りなのだ。

 かなり大雑把な計画であるが、頼りはまずクーガーの存在いのう。そしてこの三人、灯りもないのに不自由している様子はない。


 夜目が効くのである。三人は戦い慣れしていた――


               ~・~


 大雑把な計画のあらましはクーガーの異能によって、速やかに侵入。ジョカイの身柄を押さえてキンモルがそれを運ぶ。シショウは「ゴシントウ」が本物かどうかの確認。


 人だけを揃えて、後は行き当たりばったりとも言える計画であったが……


(アニキには何が見えてるんだ? いや見えてはいないのか……真っ暗だしな)


 すでに三人はペルフェク島に侵入を果たしていた。島に侵入どころか、既に島中央にある砦の中にまで入り込んでいる。


 ここまでスムーズに事が運んだのも、クーガーの異能によるものだった。

 理屈抜きでクーガーは見張りの視線を感じる事が出来る……らしい。その理屈はさっぱりわからないが、結果がそうなってしまっている以上、シショウとしても、それを受け入れるしかない。


 それにしてもクーガーとキンモルはあまりにも手慣れ過ぎていた。

 見張りの意識を奪って無力化すると、あっという間に縛り付けて物陰に放りこんでしまう。


 シショウが偽悪的に、


『殺さなくてもよろしいんで?』


 と、尋ねてみるとキンモルはこう答えた。


『今の手持ちでは血が出てしまう。すると臭いでばれる。それに生かしておいた方が金になる』


 あまりにも殺伐とした答えが返ってきた。この二人の出身地、ニガレウサヴァ伯領はどんな場所なのか。シショウがそんなことを考えている間に――


『女もいたのか。帝国とそれなりに繋がってたみたいだな』

『スイーレ様が事実上、海賊になっていたんだろうと仰っていましたから、それも関係あるのかもしれえません』


 三人は眠りこけていたジョカイを無力化してしまった。

 半裸の身体を荒縄でぐるぐる巻きにして、ついでに荒縄で猿轡もかましている。


 一緒に寝ていた女はシーツを口に詰めたうえで、やっぱりぐるぐる巻きだ。

 ここは砦の奥まった部屋で、色々雑多なものが詰め込まれており、確かに海賊の頭目の部屋らしくはあった。


 そのジョカイはネジくれた口髭に、それとは別に無精髭。脂ぎった黒髪に、垢じみた帝国風の衣服と、かなりヤサグレていた。

 シショウが「間違いない」と請け負ってくれなければ、クーガーたちはスルーしてしまったかもしれない。


 その後、部屋にあったランプを小さく灯して、この部屋の御神刀の有無を確認してみると、幸運と言っても良いのだろう。

 すぐにシショウが御神刀を発見した。だがそれは……


『……あ、ありました。こ、こんな扱われ方をしてるなんて……』


 帝国製の剣や槍、三つ又の短剣のようなものと一緒に、大きめの壺に放り込まれるという無惨な扱われ方をしている御神刀も同時に発見してしまったのだ。

 鞘に納められいるだけ、マシ、だと思ってしまった事は幸運とは呼べないだろう。


『すぐにカタをつけれるさ。――キンモル』

『はいはい。前の何とか伯爵よりはマシですね』


 シショウの気持ちをあえて無視して、クーガーは促した。今も侵入中であることは間違いなく、キンモルがジョカイを担ぎ上げてるのを見て、シショウも即座に気持ちを立て直した。


 何しろ帰りはジョカイが暴れるのでずっと静かに、とはいかないし、見張りを排除してきているので、姿の見えない者がいる――と異変を察する者もいる事が予想されるからだ。


 だが、それでもクーガーの異能は変わることなく、帝国の残党を先回りして叩き伏せることに成功する。

 そして砦からは無事脱出し、水平線に太陽が姿を現した頃――


『よし! 見えたぞ! シショウ、「ゴシントウ」を見せてやれ!』


 クーガーたちはペルフェク島の海岸に辿り着いていた。そしてペルフェク島の周りはアハティンサル領の戦士たちが小舟に乗って、包囲している。

 これもまた段取り通りだ。


『は、はい!』


 言われて、シショウが大事に持っていた御神刀を高く掲げる。こうなれば、アハティンサル側が遠慮する必要なない。あとはただ帝国の残党を――


 その時、シショウは見た。


 ――自分たちに狙いをつけるソウモの姿を。

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