手探りで心を折ってゆく
そう。「ゴシントウ」消失事件の犯人はサハク。まだ「『ゴシントウ』が見えなくなる」現象が判明する前に、その「答え」だけはわかっていた。
でもそれは、細かいところはわからないけれど犯人であることだけはわかっている――状態だったのよね。
だからサハクが「ゴシントウ」を隠す動機に関しては、上手く説明できない部分があったことは確か。でもクーガーが気付いてくれたおかげで、それも上手く説明できるようになった。
ユーチは「ゴシントウ」が見えななった。
ところがサハクには見えていた。
こういう異常な状況になった時――思わず「ゴシントウ」に触れてみたいと思うサハクの心境はわからないでもない。
まさに魔が差した、という状況だったんでしょうね。
もしかしたら、手に触れた瞬間にユーチが戻って来て、思わず「ゴシントウ」を隠してしまった可能性もある。
そしてそれは……不幸なことにユーチの錯覚とつじつまが合ってしまった。
……という感じに私が頭の中を整理していると、周囲からはサハクを責めている様子が窺えた。多分責めているんだろう。聞き分けは出来ていないけど、そういう雰囲気だ。
だがサハクは沈黙したまま。
これは――やっぱり心を折っていかねばならないか。
私はクーガーに合図を送る。そうするとすぐにクーガーが立ちあがり、
『スイーレの説明はまだ終わっていない。静かにしてくれ』
……というようなことを言ったのだろう。周囲が鎮まっていった。
これからは、私はただ説明するだけでは済まなくなるはず。クーガーにも手伝ってもらわないと。
けれど、まずはサハクを責めなければ。
『……某が説明するまでサハク自身も何が起きていたのか? 何故ユーチは消えたと錯覚したのか? それが不明だったのであろう。だが今は、サハク自身も納得出来たはずだ。あのとき何が起こったのか』
ビクリ、と丸まっていたサハクの背が震える。
『答えよサハク。某の言っていることは正しいのか、間違っているのか?』
実は、この辺りあまり重要ではないと思っている。
ただサハクの心を折るためだけに、二者択一で迫ってみた。先ほど皆から責められていたし、何かを言わなければマズいと思っているなら――
『……正しい、です』
うん、これぐらいなら私も聞き取れるしね。
では、次に繋げよう。
『よろしい。つまり我々の知恵はお前を上回るという事だ。だから――』
私は意識して、息を吸い込んだ。
『――お主の共犯者の存在にも気づいている』
その私の指摘に、サハク以上に周囲からの反応がもの凄かった。
あ~、これは共犯者の存在が必然であることも説明しなくちゃならない感じか。結構疲れてきてるんだけど。
クーガーが気を利かせて静かにさせてくれてるわけだけど……ああ、トウケンが疑われているのか。
それは――ああ、そういう可能性もあるか。それは否定できないな。
でもトウケンが流罪でアハティンサル領に来たという事が本当なら、ちょっと条件に当てはまらない部分がある。
……かといって私の推理が合っている保証はないんだけれど。
とにかく説明を続けてみよう。とことんまで見抜いていると思わせれば、サハク自身が、共犯者を指さすだろうし。
『――サハクが剣を隠した。そこまでは確定だ。だがサハクにできるのはそこまでだ。どうしてもサハクと帝国が結びつかない。それにサハクが「タイシャ」から「ゴシントウ」を持ち出すのは困難だろう。どうしても共犯者の存在が必要だ』
実はこの辺りはかなりあやふやなんだけど……ああ、大丈夫みたい。
やっぱりサハク一人で全部やってのけた、というのはアハティンサル領の人たちにとっても無理がある想像みたい。
頷きあって……結局はトウケンに注目している。
でも、トウケンなら……そうだ。最初からトウケンには無理だったんだわ。説明しながら気づいた。
『その共犯者はサハクに親切そうに接したのだろう。もしかしたらサハクから相談を持ち掛けたのかも知れぬ。ただその共犯者には絶対的に必要な条件がある。事件発生の日、この「タイシャ」に訪れることが出来た人物だ。サハクは「ゴシントウ」捜索に忙殺されているから「タイシャ」を抜け出すことが出来ない』
その条件を付け足すと、胡散臭く思われていたトウケンが「タイシャ」に近づけるはずもなく、実際近づけなかったのだろう。皆の視線が彷徨い始める。
『共犯者は「ゴシントウ」がサハクの手にあり、それが誰にも知られていないことが貴重な機会であることをすぐに察した。これは帝国に恩を売る絶好の機会であると。そこで言葉巧みにサハクから「ゴシントウ」を受け取り、それを帝国に渡した』
息を呑む気配がする――
『それはすぐさまアハティンサル領への恫喝に結び付いた。皆が迷惑を被ったことは明らか。だからサハクはもう自分の犯行を告白することが出来なくなった。これも共犯者の計算だったのだろう。だがしかし――』
私は改めてサハクを睨みつける。
『――全ては明らかになった。もう隠していても意味がない。せめてもの償いに……共犯者を指させサハク』
もう十分に心を折ることは出来たはずだ。
そしてサハクも、もう限界だったのだろう。おずおずと右手が上がり、指し示す先には――
『ヘーダだな?』
私の確認にサハクが崩れるように頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます