「さて、皆さん」をアハティンサル語で
これは壮観、と言っても良いんだろう。
今私は「タイシャ」の中にいる。問題の亀裂が直接見える、一番奥の部屋だ。
もちろん私一人だけではなく、周囲には見知った顔が並んでいる。あ、ユーチたち本来の居住者はもちろんとしてね。
ショウブに
……他によく知らない顔もあるけど、それはクーガーたちが手配したのだろう。
他に私が関わってはいない人物と言えば、やたらに目立つ男がいるわね。
着ている服が
だけど美形には間違いないから、こいつがトウケンで間違いないのだろう。
帝国風の艶やかな黒い着物を、金色に輝く繻子で絞り、それと合わせるようにして黒い髪も金色の簪でまとめている。
……もしかしたら、本当に帝国の宮廷に出入りしていたのかも。
何しろ形式上は
パテット・アムニズが出てくるとなれば、この「タイシャ」に行ってみよう、と思う者がたくさんいるらしいので、なかなか効率的だ。
クーガーがそこまでやっているわけだから、リチー、ミツマ、ホウクといった現在アハティンサル領を取りまわしている三人もこの場にいるし、当然ヘーダもいる。
それは長老たちの指示があってのことだろうけど。
――さて、そろろかな?
私が横に座っているクーガーに目で尋ねると、頷きが返ってくる。
「親衛隊」も上手くやってくれているようだ。
私はそれに奇妙な満足感を覚えながら立ち上がる。
ちなみに今回、椅子と呼べるものを使っているのは王国出身の私たちだけで、アハティンサル領の人たちは、社で私たちも使っていた植物の敷物を使っていた。
それは、以前は椅子を使っていたユーチたちもそうであるので……ますます、クーガーの指摘に説得力を与えていることになる。
そして、私がそう確信できたことが一番大事なことかもしれない。
何しろ、これから――
『――さて、各々方』
と、定番の台詞(アハティンサル語バージョン)で切り出さなくてはならないのだから。
これって一方的に話し続ける宣言みたいなものだと、口にしてから気付いた。間に通訳が入るの面倒だから、これは私にとって有利。
……でもこれってミステリーの宣伝にもなるわけよね。そう考えるとみっともない姿を見せるわけにはいかないわ。
だからまず、私は為すべきことを済ませてしまおう。
『まずは陳謝を。
一斉に周囲が騒がしくなる――という事もない。
何しろ半分ぐらいは、事情を知っている人たちばかりだからね。近くにいるユーチが「え? え? え?」という感じで慌ててはいるけど、これも狙い通り。
さて、続けよう。
『某の婚約者であるクーガーが、ケイショウ、ギキ、ヨウマンからの依頼を受け、帝国からの干渉を排除することとなった。そしてクーガーは、そのためにはこの「タイシャ」で起こった事件の解決が肝要と判断した』
じゃあなぜ私が喋ってるんだ? って事になるんだが、それに対する疑問の声は出てこなかった。
私たち王国の人間が、事件について知っていることに驚く人がほとんどで、次には私が何を言い出すのかと息を潜めているという感じ。
では、その期待に応えてみせるとしよう。
『そこでまず、各々方の錯誤を正したいと思う。現在、各々方はゴシントウが帝国に盗られたもの、と解釈していると考えるが――』
という感じで、まずはゴシントウが帝国の手にあることと、ゴシントウが「タイシャ」から無くなったことは別々に考える事だと指摘する。
これは以前、私たちがサロンでやった会議を整理して伝えるだけなので、特に難しくはない。
あ、もちろんミステリーの常套手段についてはオミットしたけれども。
そのせいかどうかはわからないけど、私が事件を分解してゆくと皆に理解の色が広まってゆくのを感じることが出来た。
当然、それによってユーチに視線が集まってゆくわけだけど――とにかく話を進めよう。
『では、何故ユーチは無くなったと思ったのか? それが取り組むべき問題であり、一番の謎であることがはっきりしたと思う。つまりこの問題は“なぜ「ゴシントウ」は消えてしまったのか?”と言い換えることも可能という事だ』
『そ、それは誰かが盗んだからなのでは?』
ホウクが割り込んできた。
何を言っているのかはっきりとはわからないが、大体わかる。横のクーガーがその“大体”を確かなものにしてくれた。
この展開は想定通り。私は慌てずに話を続ける。
『――そういう意味ではない。某が“消える”と言っているのは「ゴシントウ」が見えなくなるということだ』
息を呑む気配。
そう。ここからがクライマックスだ。
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