突破口を開くのは?

「ああ! そうか! そうですね。そう考えればかなり可能性があります。さすが主宰!」


 スイーレの指摘は推理小説ミステリー好きにとってはそれだけで理解が及ぶものらしい。パテット・アムニズが快哉を叫ぶが、クーガーたちは、はっきりとは理解できないようだ。


 そこでパテット・アムニズが自分の役割とばかりに説明を始めた。


「よろしいですかな? つまりサハクがほんの出来心で『ゴシントウ』を手に入れてしまった。それも誰もが気付かない内に。そのため騒ぎが大きくなったので、今更言い出せない。そこで何者かに相談したのでしょう。だが不幸なことに、その何者かが――」

「帝国の息がかかった人間だった。まぁ、そういう風に考えると、概ね無理なく説明できると思うのよ」


 そこでクーガーも長老たちの説明をはっきり思い出せたようだ。

 「ゴシントウ」が無くなった後は「大社」自体が大騒ぎになって、人の出入りも全く管理し切れてはいなかったことを。


 「ゴシントウ」が二人の言うようなルートを辿るなら、それはいつの間にか「大社」から持ち出されても、気付かないだろう、と。


 そこまで納得したところで、クーガーは問いただす。


「で、その何者って言うのは?」

「……心当たりはあるのよ。一人だけなんだけど」


 短刀直刀を旨とするクーガーがそう尋ねると、スイーレもまた短く応じた。

 それに反応したのはパテット・アムニズだった。


「主宰、さすがですな。僕はそこまでわからない」

「これは私とアウローラしか聞いてない部分頼りだから、それは仕方ないと思うわよ。第一、その心当たりが正解かどうかはかなり頼りない、というか証拠の掴みようがないのよね」


 いきなり自分の名前が出てきて驚いたアウローラであるが、どうやらスイーレの「アハティンサル領で交友関係を広めよう」運動の時に、スイーレは何かに気付いたのだろう、と納得した。

 それなら自分が気付かなくても仕方がないと。


 だが当然、それではクーガーが納得しない。


「いや、そこまでわかってるなら、もう後はサハク捕まえて、吐かせればいいんじゃないか? サハクは確実なんだろう?」

「それは私も考えた。全部がミステリーのようにはいかないって」


 その発言はスイーレを知る者にとっては、驚くべきものであった。

 何よりスイーレ自身がそういった考え方になる自分に驚いたのかもしれない。すぐにこんなことを言い添えた。


「でも、それってアハティンサル領の人たちは何て思うんだろうって、考えてしまって。拷問で無理やり白状させた、という風に思わせると……あんまりおもしろくはないわね」


 そう言われると「親衛隊」から慕われているクーガーにしても、強くは反論できない。思わずスイーレに救いを求める。


「じゃあ……じゃあ、どうするんだ?」

「先に傍から見てもわかるぐらいサハクの心を折ってしまう」


 穏やかな手段を用いるべき、というような展開であったはずが、スイーレの口から紡ぎ出されたのは、それと全くの逆。

 流石にその場の全員が一歩引いてしまった。


 それに気付いたスイーレが慌てて手を振った。


「ち、違うわよ。あくまで言葉だけで心を折るの。整合性のある言葉で。もう逃げられないんだぞ、と」

「……つまり、名探偵が全員を集めてやるアレですな」


 パテット・アムニズが、スイーレの描く未来図を察してしまった。

 考えれば「傍から見ても」という状況を想定している辺り、スイーレはずっと前から心を折るという手段まで考えていたということなのだろう。


 そしてサハクの心を折る手段として――


「『ゴシントウ』が消えてしまったトリックを言い当てるわけか……それでスイーレは躍起になって、それを突き止めたいと思ったんだな」

「そうなのよ」


 クーガーがついにスイーレに追いついた。

 しかしスイーレは、それ以上進むことが出来ない。このままクーガーと手を取り合って前進という事にはならないのだ。


 これは、いよいよ袋小路に追い詰められたと言ってもいいだろう。

 何とかトリックを見破らねばならないが、肝心の現場検証が難しい。時間も経っているし、何度も訪ねて調査とはいかない場所でもある。


 だが――


「スイーレ、『ゴシントウ』についての記録を見たことがあるんだよな?」


 クーガーが不意にそんな事をスイーレに確認した。

 それに面喰いながらも、スイーレはおずおずと頷く。


「え、ええ……」

「その記録では『ゴシントウ』はどういう風に置かれていたのか書かれているのか?」

「そ、それは……確かあの亀裂の上に台があって、その上に『ゴシントウ』が横に寝かせて置かれているって。そういう風に置かれていたって、スケッチみたいなもの添えられていたから……」


 多分、それで間違いないと思う――とスイーレは説明した。


「ということは……僕たちが行った時には台ごと片付けられていたんでしょうな」

「それはそうでしょうね。台だけ残されていたら、何かが載せられていて、今は無くなっていることが、わかりやすすぎるもの」


 その説明に補足するようにパテット・アムニズが確認すると、スイーレもそれを肯定した。実際、スイーレも台がない事について、現場で同じように考えていたのだから。


 だがそれも、わかり切ったことを確認するだけで、前進してはいない事には変わりない。何とか突破口を――


「――それなら『ゴシントウ』見えなくなるかも」


 クーガーが突然、そんな事を言い出した。

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