隠されていた小島
クーガーはそのまま長老たちに詰め寄ろうとした。
だが、それをスイーレが制する。
「あなたが訳してくれないと、私はさっぱりなの。それを忘れないで」
それは全くの道理であったので、クーガーも何とか気持ちを落ち着けた。あるいはクーガーに通訳を頼んだことも、それが狙いであったのかもしれない。
そのままスイーレは長老たちに視線を移した。
『そちらも出来れば説明するのは一人にまとめて欲しい。他の二人は適時補足するという形でお願いしたい』
古風な話し方ではあったが、それだけにスイーレが謙っているようにも聞こえる。
そのせいで長老たちも居住まいを正して、説明するのはケイショウという事になったようだ。
こうやってケイショウが説明し、クーガーがそれを訳す。
この形が出来上がったわけだが、次に誰が、何を話すべきか見失ってしまった。
一体、どこから――
『――理由ははっきりしないが大事なゴシントウが帝国の手にある。それであなた方はそれに従うしかなくなった。ここまでは正しいか?』
やはり、というべきかスイーレがそう言って口火を切った。
ケイショウたちは、救いの手が現れたとばかりに熱心に頷く。
『それで帝国は如何なる事を?』
流れのままにスイーレがそう尋ねると、ケイショウはしばらく言葉を選んでから、
『帝国のやることに興味を抱くな。帝国がやらない事にも興味を抱くな――ですな』
と、答えた。
それを訳してもらったスイーレは首を傾げる。
『代官への指示は?』
『何事もなかったように引き返させろ、と』
そこで、傍らのヨウマンが声を上げた。
『そういった指示が出たのは、いつも通りの代官ならウチに興味を抱かずに帰るのではないか? とこちらが言ったせいかも……』
『ああ、そうだった。そんな話をしたと聞いたな』
ギキまでも加わって、ヨウマンの声を後押しする。
クーガーは、それに疑問を抱いたのだろう。しかし自分の役目を自覚し、訳しながら自分でも考え始めたようだ。
スイーレもまた、それらの発言を訳してもらい眉根を寄せた。
パテット・アムニズは自分の立場を考えての事か沈黙を守っている。何しろ確実に国同士のトラブルに発展しそうな状況で、一介の作家では荷が勝ち過ぎるからだ。
それでも口の端に浮かぶ笑みだけは押さえきれないようであったが。
『……まず』
ようやくの事でスイーレが口を開いた。
『今もまだ帝国の指示を受け取ることが出来るような状態なのか? それは確認しておきたい』
『帝国の――ジョカイというのがいるんですが、それがペルフェク島にいる』
突然、ケイショウの口が奏でた「ペルフェク」という王国風の響き。スイーレとパテット・アムニズにとってはそれだけでも不意を突かれることになった。
ケイショウの言葉を理解できるクーガーはさらに驚いて「ペルフェク」という響きだけではなく「ペルフェク島」という言葉の意味までも含めて、混乱してしまう。
そこで通訳する必要性もありつつ、そのままケイショウに「ペルフェク島」について問いただし、それをスイーレに伝えながら「ペルフェク島」について知ってゆくことになった。
「ペルフェク島」とは帝国側では「リョウカ島」と呼ばれており、アハティンサル領の南方にある小島であるとのこと。
それほど離れた場所にあるのではなく、小舟で行き交うことが出来る、と説明された。
その「ペルフェク島」は小さいながらも、良港を抱えており、この島に居座られると、陸地からは何とも手を出しづらい島であることも判明した。
「……スイーレ、この島のこと知ってたか?」
知れば知るほど、重要な島であることが確実になってゆく。だからスイーレの下調べの中で、この島が出てこないのはおかしな話、という事になるわけだが……
『留意せよ。王国語だけで話をするのは相手に不信感を抱かせる』
スイーレはそうアハティンサル語で告げることによって、長老たちを安心させた。その上で、さらに続ける。
『某は知らなかった。これは某の調査不足ではなく、恐らく王宮の記録に手を加えられていることが理由と推測する。帝国の密偵が仕事をしたのだろう』
『て、帝国が?』
『そう考えた方が筋が通る。前回の騒動でも帝国の影があった。もっとも「ペルフェク島」の記録を消去したのは、かなり前だと推測される』
例えば――
そういった仕事を完了した、という報告が帝国に知らされていた。
その記録を元にジョカイという帝国人が「ペルフェク島」を占拠した。
これだと今までの現象については、割と素直に説明できる。――と、スイーレは告げる。
長老たちは、ここでスイーレの視野の広さと経験。そして思考の深さを実感した。
スイーレは「ペルフェク島」についての推測をパテット・アムニズにも共有させた上で、ついに本命というべき問題に取り掛かることにしたようだ。
『――それでゴシントウはどう盗まれた? それがわからないからあなた方も身動きできないのでは、と推測する。ただでさえ現状は弱い立場だ。ゴシントウを無下に扱うと脅されれば動くことも出来まい』
スイーレのその言葉は完全に正鵠を射ていた。
長老たちは完全降伏の心持ちで、ゴシントウ盗難についての説明を始める。
ケイショウが何とか他の二人を押さえながら――
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