謎は見え、振り出しに戻る
「ゴシントウ」が無い――
それがスイーレの見出した“間違い探し”の成果である。
スイーレが集めた資料によると「大社」はそういった刀を祀っていた。それは間違いなところだが、今日訪れた「大社」にはそういった武器の類は無かったのである。
それも確実なところだ。
スイーレがそう告げると、キンモルから声が上がった。
「スイーレ様の仰ることを信じないわけでは無いのですが、そういった資料はこちらに持ってきておられるんですよね?」
それを自分の目で確認したい、とキンモルが考えるのはもっともなことだろう。
だが、スイーレはもっと用心深かった。
「持ってきてないわ。その資料を盗られるとか、偽物と入れ替えられるとかしたら、それでおしまいだもの。私の頭の中なら、その点は安心できる。あと、資料を持っていなければ『ゴシントウ』が無いことに気付いていない、と思わせることが出来るでしょ」
「それはそうかも知れないけどさ。実際に“何もない”状態を俺たちに見せてるわけだろ? そこまではしないんじゃないか?」
クーガーの言い分は、まさに結果論の最たるものであったが、スイーレはまだまだ慎重だった。
これが
「見せておいて後から出す。その資料は他の部屋だと強弁する。そもそも資料が間違っている。こういった手は考えられるわね……ただ――」
「あの祭司長が、そういった手を使うとは考えにくいですな。何と言うかキャラクターが違う」
スイーレの言葉に添えながら、パテット・アムニズが作家らしい言葉を口にする。
そしてパテット・アムニズの見解については、スイーレも大きく頷くしかなかった。
「そう。そうなのよ。多分、そういった誤魔化しが出来ない性格なのよ。あのユーチって祭司長は。だから、偽物でもなんでも用意すればいいのに――」
「いや、それはどうでしょう? 僕もあの場所には違和感を感じていたのですが……」
「ゴシントウを知っていたの?」
「いえ、そうではなく――」
パテット・アムニズの感じていた違和感とは、もっと漠然としたものであった。
言ってみれば、あの場所の「呆気なさ」に違和感を覚えた、と。
「これは僕の私見ですが、神殿には祈りを捧げるべき対象があった方が良いのです。確かにあの伝承と光景は素晴らしいものがありましたが、畏敬すべき対象があまりにも漠然とし過ぎている。その点、
――山を剣で切り開いた。その剣が今も伝わり、それがここにある。
……というのは、実にわかりやすい。ああ、これは主宰がゴシントウについて思い出してくださったので、後から補強しましたが、僕はそういう伝承の筋立てが頭の中で完成し納得も出来たのです」
滔々と並べたてるパテット・アムニズの弁。
そのリズムはまさにパテット・アムニズ著のミステリーに通じるものがあった。
そのせいか他の四人も、パテット・アムニズの主張を受け入れつつあったが、そういった主張がされた理由を見失っていた。
確かスイーレの言葉に異を唱えたのが始まりで……
「……先生。お嬢様のお話に何か問題があるように仰っておられましたが」
アウローラが軌道修正を試みる。
それで、パテット・アムニズもはたと気付いたように膝を打った。
「そうでした! つまり畏敬の対象としてゴシントウがあるのならば、その偽物を作ることも出来ない程、この地方の人々は敬っているのではないかと」
「……なるほど」
パテット・アムニズの言葉に、スイーレは深く頷いた。
それに、スイーレたちがゴシントウについて知っているのかわからない状態なら、偽物を作ることに躊躇する心理も理解できなくはない。
それにユーチのキャラクターを考えると……
「でも、そんなに大事なものが無いんだよな? それなら……うん? 何かおかしいのはわかるけど、それが説明できない」
「クーガー」
思考を邪魔された形のスイーレだったが、この時クーガーの名を呼んだのは、
「それは、良い“気付き”よ。もう一度ミステリーに取り組んでみない?」
と、スイーレにとって最大級の賛辞を贈るためだった。
「え? え? 俺何か言ったか?」
戸惑うクーガー。そして次の瞬間にはスイーレもスンッと心を落ち着けていた。
「――クーガー。説明できないのは重要な情報が足りてないからなの。それがあなたの指摘で確定したわ。確かに大事なものが無くなったのに、この地方の民たちは変に落ち着いている。その理由を考えるべきなのよ」
「な、なるほど、そうなるのか」
スイーレが言語化してくれたおかげで、クーガーも自分が抱いた“気付き”、もしくは違和感を認識できた。
しかし、である。
「で……何をすればいいんだ?」
「まぁ、改めての情報収集になるわね。こういう時は……そうね、あなたがやってきたようなことをするべきなんでしょう」
「また俺が何かしたのか?」
「この地方の人と仲良くなるのよ。だけどゴシントウが無くなってることを言っちゃだめよ。それも含めて困っていることを向こうに言わせる――うん、それが目標になるわね」
それはクーガーにとって、全く不得手な目標だった。
しかし、その目標を設定するにあたって、クーガーも知らず知らずのうちに貢献してしまっている。
それを「自縄自縛」というのは――あまりにも理不尽というべきなのかもしれない。
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