小細工を弄しない

 何事もあっさりと決めてかかるクーガーが、少しばかり躊躇うような様子を見せたのは「親衛隊」の面々との交流があったからだ。


 クーガーとしては「悪いことをしているのはアハティンサル領である」という結論が出ていた。

 だがそれを宣言した時に、同時に親しくしている「親衛隊」の面々も自分に隠し事をしていたと認めることになることを気付いてしまったのだ。


 そのため、その宣言を取りやめようとしたが、スイーレの説明によって「アハティンサル領に悪い部分は無い」と考えることも不可能だと気付く。

 そこで、自分に言い聞かせように再度、自らが感じた結論を口にしたというわけである。


 だからこそ、クーガーはそのまま続けた。

 言い訳を探すように。


「――そういう小細工は必要ねぇよ。まっすぐに行って、やりたいことをすればいい。パテット・アムニズ。お前が取材で来てるのは本当なんだろ? あのおとぎ話のことで」

「それは……確かにそうです」

「じゃあ、そのまま俺についてくれば良いんだ。スイーレの友人なら俺が便宜を図るの、おかしくないだろ? それとも、その『タイシャ』というのは取材しなくても良いのか?」


 その問いに、パテット・アムニズは素直に応じた。


「これは僕の経験則でしかないですが、神殿などには昔の記録が残っていることが多々あります。きちんと取材できるなら、その方が助かりますな」

「ほら! それならお前はお前のままでいいじゃねぇか。こっちが付き合ってこそこそする必要なんかないさ」


 そんなクーガーの理屈は――実際のところド正論であった。

 スイーレもそれに気付いて、難しい表情を浮かべている。


「まぁ……そうね。こっちが真正面から行けば、相手の対応で見えてくるものもあるだろうし。わかったわよ。明日はそのまま行きましょう。パテット・アムニズ、それで構わないわね?」

「もちろんですな」


 話が好転したのに、まるで降伏するかのようなスイーレの雰囲気。

 パテット・アムニズは、何とか笑みを微笑みの範囲内で収めることに苦心する。


 その気配を察してしまったスイーレが、さらに言い訳を付け足した。


「それに『タイシャ』についても、一応資料は残ってたのよ。王国にもね。私はそれがあるから話を聞かなくても間違い探しは出来るようになるかもしれない――とにかく、行ってみましょう」

「それはさっき聞きいたぞ」

「うるさいわね」


 ――こうして王国の人間による会議は、終了した。


              ~・~


 会議が終われば、後は実際に動くしかない。そして実務担当ともなれば、アウローラとキンモルの受け持ちだ。


 アウローラはずっと行っていた大社への先触れを取りまとめ、二日後には段取りをと整えてしまった。

 大社の場所も、ヤマキから半日ほどという事で、それほど離れていないことも理由の一つにはなるだろう。


「何だか、何もかもが狭い地域に固まっているような印象ですね」

「国じゃないからね。都市機能が備わっているのが、この辺りだけなのかも――それが推理小説ミステリーにとって有利になるのか否か」


 アウローラの言葉に、らしく言葉を返すスイーレ。

 あくまでアハティンサル領をミステリーの舞台として捉えるつもりのようだ。


 キンモルは「大社」に行くまでの経路確認と、その足の手配である。最後の最後は階段を登らなくてはいけないようだが、そこまでは馬車で行けるようだ。

 その手配を始めるが、この時少しばかり厄介になったのが「親衛隊」の面々である。


 真正面から行くと決まったのは良いが、その場合「親衛隊」の連中も当然それに同行することになる。それは、もはやアハティンサル領での「当たり前」になってしまっていて、それを止める理屈がキンモルには思いつかなかったのである。


 そこでクーガーが前に出てきた。

 そしてあっさりと、こう告げる。


『ついてくるな』


 身も蓋もない、問答無用の命令だった。


『あ、アニキ……』


 思わずシショウがそう言って縋ろうとするが、クーガーは一言も与えずに「親衛隊」の面々を黙らせる。

 元々、戦闘力の高さで若者たちを従えていたクーガーであるので、ここまで高圧的でも問題なかったのである。


 さらに「親衛隊」というくくりを「アハティンサル領」というくくりに拡大すれば「親衛隊」の中でも一番弁の立つシショウも、強くは出られなかった。

 何しろ現在進行形でクーガーに隠し事をしている事は確かであり、それは「大社」絡みであるのだから。


 こうなると「親衛隊」の面々は自縄自縛に陥ってしまい、それ以上は動けなくなってしまったのである。


 そこにスイーレから、こんな説明――というか説得の言葉が放たれた。


『本来なら代官たるクーガーが「タイシャ」に出頭を命ずることがしきたり。そこをそちらの事情を考えて、わざわざ出向こうというのだ。互いにこのことは事を大きくしないことが吉だと考える』


 事を大きくしない。

 それは確かにアハティンサル領の方針にも合致しているため「親衛隊」もそこで完全に大人しくなった。


 そしてようやく……スイーレたちは大社に向かう事になったのである。

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