疑惑の濃度

 そう言葉を投げられたパテット・アムニズは、照れた表情で頭をかくしかなかったようだ。


「……いやぁ、バレバレですか」

「バレバレね。プロット段階でダメ出し出来るほどよ。あなたのプロットを見たわけでは無いのだけれど」

「うん? 何がどうしたんだ?」


 仲間外れはイヤ、とばかりにクーガーが、そのやり取りに加わってきた。

 それにスイーレは丁寧に応じる。素直に応じたのは、きっと推理小説ミステリー終盤の探偵の独演会気分を思い起こしてしまったせいだろう。


 つまりはパテット・アムニズが「タイシャ」という建物に興味津々であるという事だ。スイーレはそれに気付いた「違和感」について説明しようとするが、元々スイーレは探偵でもなんでもないし、情報の欠落もある。


 すぐに言葉に詰まってしまった。

 何しろパテット・アムニズの変化に気付いたのは、スイーレの経験に基づくもので普遍的な理屈がそこにない。


 それに何より、


 ――「パテット・アムニズが『タイシャ』に行きたがる理由」


 については、見当もついてはいないだから。


 そこで途中からパテット・アムニズが説明を引き継ぎ、トウケンから入手した情報をこの場で開示する。

 スイーレが、元々この領には怪しいところがある、と告げたことで、パテット・アムニズにしてもここで慎重になる理由がなくなったのである。


 この状況なら、あてにならない噂で、状況を混乱させるミスリードにはならない、とパテット・アムニズが判断したわけである。

 もちろんミスリードが九割とも呼ばれる男の判断であるから、スイーレもトウケンの証言を慎重に扱った。


 しかし、パテット・アムニズがミスリードを用いるべき理由が見出せなかったこと。

 さらに「タイシャ」という建物を中心にして何事かを隠そうとしている、と判断できたことで、トウケンの証言に強度があるとスイーレは考えたのである。


「……何よりも、クーガーたちから隠そうとしていたように思える『タイシャ』。それと、トウケンという人物が、この領に住む者たちが隠そうとしていると考えるものも『タイシャ』。その名がバラバラに出てきたのよ。これで怪しくないわけないわ」

「それは……そうですね」


 スイーレの熱を冷ますことを使命のように感じていたアウローラも、それに同意するしかなかった。

 では、具体的にこれからどうするか――という話になりかけたところで、キンモルが声を上げた。


「――私からもよろしいですか?」

「ええ、もちろん。気付いたことがあるなら何でも」


 キンモルの声に「珍しい」と思いながら、スイーレはすぐに許可を出した。

 そこでキンモルは言葉を選びながら、スイーレに質問する。


「いえ……その、スイーレ様のような気付きでは無いんですけど、スイーレ様は今日の昼に、この付近と北を回られた。そして南にも行きたいと。それは南に『タイシャ』があるからですか?」


 キンモルがそこにこだわったのは、護衛に関係してのことだろう。クーガーは実質的に護衛は必要ない存在ではあるが、スイーレはそうはいかない。

 もちろんアウローラとパテット・アムニズについてもだ。


 そしてスイーレの返事は――


「ああ、そこか。……実は関係ないのかもしれない。現段階ではあまり関係あるようには思えないのよね」


 と、いささか肩透かしな内容だった。

 キンモルも意外に感じたのだろう。


「そうなのですか!?」


 と、半ば詰問するような勢いで確認してしまう。スイーレもバツの悪さ感じながら、小さく頷いた。


「そうなのよ。南に神殿があることと、私が南に行きたがったことはまた別の問題で……こっちは帝国の問題になる気がする……とにかく」


 スイーレはそこで言葉を切った。


「『タイシャ』も調べなくちゃならないし、帝国絡みの問題も含めて現地調査は必要なのよね。今更確認するまでもない事なんだけど……ねぇ、パテット・アムニズ」

「はい?」

「同行したいわよね。それを考えていたから、ややこしいことしてたんだし」


 スイーレにそう言われて、パテット・アムニズは再び頭をかいた。


「左様ですな。全部話してしまったので、後はクーガー様と主宰にお任せするのが筋とは思いますが……」

「作家としては納得いかないでしょう。遅れてやってきたクーガーお付きの武官という事にするか、私の護衛にするか」


 ナチュラルにパテット・アムニズの身分詐称を考え始めるスイーレ。

 「タイシャ」に乗り込むにあたって、それっぽい形式を整えよう考えたのだ。何しろこの地方の「神殿」でもある「タイシャ」である。


 スイーレがそう考えるのも自然といえばそうなのかもしれないが――


「何言ってんだ? 普通にこいつを連れて行けばいいんだ。俺たちは何も悪いことしてないんだぞ。正面から行けばいい」


 クーガーはスイーレに真っ向から反駁した。スイーレはさらに反論する。


「だけど、この地方では重要な――」

「重要な場所で隠し事してるんだろ? 悪いのは……こっちの連中だ。うん、それは確かにそうなんだよな」


 クーガーが自分で確認するかのように、そう結論付ける。

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