スイーレのダメ出し
その後、クーガーとキンモルは今まで通り王国風の建物へ引き上げた。
そしてスイーレとアウローラは帝国風の庁舎で休みを取ることに。アウローラの意向が働きまくった結果である。
ちなみにパテット・アムニズは王国風の建物だ。そのパテット・アムニズは、朝になってみると姿を消していた。
使用人たちと同じ食事をし、早々に取材に出かけたらしい。
そしてクーガーとスイーレは、打ち合わせ通りにヤマキ近郊を中心に視察に向かう事になった。
これはスイーレの希望でもある。
そして、四人が庁舎の前に姿を見せた時、シンコウたちをはじめとする面々もその場に集まって来ていた。
全員が全員、武装していたので、スイーレに日傘をさし向けていたアウローラはその顔を引きつらせていたが、スイーレは全く動じた様子を見せない。
『如何なる用か?』
と、逆に恫喝するような勢いでシンコウたちを圧迫する。
そこで前に出たのは小柄なシショウだった。
『俺たち、アニキの大事なお方の護衛をしたいんです。アニキの大事な方なら、俺たちにとっても大事なお方ですから』
そのシショウの言葉に「愚連隊」の面々が一斉に頷く。
クーガーとキンモルによる、熱のこもった同時翻訳で「愚連隊」の思うところ理解したスイーレは、左右で大きさの違う星がちりばめられた耳飾りを揺らし、しばらく考え込んだ。
『……お主たちの気持ちは嬉しく思う。だが、このままではダメだ』
『だ、ダメ……ですか?』
そんなシショウの言葉を聞き取ることが出来たのかどうか。スイーレは同時通訳を無視して、さらに言葉を並べる。
『人が多すぎる。これでは周囲に迷惑をかける。二人を選ぶのが良い。それを交代させよ』
『な、なるほど』
『さらに衣服を揃えよ。お主たちはクーガーを慕っているのだから、お主たちの責任はクーガーが取る。それを周知のものとせよ』
『それは……』
この指示にはシショウもすぐには答えることが出来なかった。
まずこの場で服をそろえることが簡単ではない事。それに、そこまでやってしまうと各氏族同士の兼ね合いが発生するのは明白だからだ。
シンコウたちをはじめとする若者たちは、あっさりとそれを受け入れるかもしれないが、それに眉を顰める大人たちは必ずいる。
それであるのにスイーレの指示は「アハティンサルでのしがらみを捨てて、
『――簡単には決められまい。これはすぐにとは言わん。だが考えておくのだな』
そういった「愚連隊」の面々の戸惑いもまた、スイーレの想定の範囲内であったのだろう。
柔軟な対応を見せた。
圧をかけてからのなだめすかし。ルースティグ伯家得意の交渉術である。
~・~
庁舎の近くにあった事。それに「愚連隊」の衣服を揃えるというはっきりとした目的が出来たこと。さらには、やはり衣服に拘ると言えばまず女性――という事で「サンセン屋」に向かう事になった。
「愚連隊」から選抜されたのはシンコウとソウモである。選抜する理由ははっきりしているのに、寄りにもよって図体の大きい二人が残ってしまった。
ただ、これはスイーレにとっては幸いした。
来訪を告げられ奥の部屋に通そうとするシンヤに、スイーレは
『結構だ』
と、短く断りを入れたのであるから。名目上は「この二人が大きすぎて面倒だ」とでも言っておけば、かなりの説得力がある。
そこでシンヤは店頭に出してあった布地を始まりにして、綺麗な染付を並べてみせた。さらに店の奥から、贅を凝らした布地も持ってこさせる。
先日のクーガーたちの来店では出さなかったあたり、客筋というものをきちんと見分けているようだ。
もっとも、それに強く惹かれているのはアウローラの方であり、早速「仕立ては王国風に対応できるのか?」などと、かなりの無茶振りをしている。
通詞代わりのキンモルも、それは難しいだろうなぁ、と表情だけで抵抗して見せたが、シンヤに伝えることは伝えた。
そうすると、シンヤも商売人として「出来ない」とも「紹介できる職人がいない」とも答え辛かったのか、答えにはなっていないのだがユチカを呼び出した。
そして、ユチカが現れたと同時に、
「あ、あ、俺それで思い付いたことがあってさ」
と、クーガーが焦りながらスイーレに訴えた。
ユチカのデザインする染付は、スイーレの耳飾りと合わせるのがいいんじゃないか? と。
約束通り、口裏を合わせてユチカはスイーレにクーガーの思い付きを褒めた。
スイーレも、耳飾りと合わせるアイデアには素直に感心したようだが、それがクーガーの思い付きだという事は信じなかった。
短い付き合いではない。
だが、それでもスイーレはクーガーに感心はしていたのである。
「愚連隊」の存在、それに民たちと気安い間柄になっている事は、クーガーでなければ為し得なかっただろう、と。
もちろん、それでクーガーを褒めようなどとは微塵も思わないスイーレなのではあるが。
『あ、あんた! センホ氏族ね! 何やってるのよ!』
それでも和気藹々と商談が進みそうなとき時、ユチカが店の前で待機していたソウホを見つけ、いちゃもんをつけ始めていた。
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