箱物行政のきっかけ?
こうして「食」の問題については、とにかくクリアになったクーガー。
次に取り掛かったのは「住」の問題だった。
いや、住まいに関しては取り立てて問題は発生していなかったのだが、急にクーガーが住居に注意を向けたのは「瓦焼き」のせいである。
「旨い、旨い」と瓦の上で焼いた鶏肉をほおばっていたクーガーが、その「瓦」に注目したのは自然の流れだったと言えるだろう。
……気付くのが遅いと言われれば反論のしようもないのだが。
「瓦」の正体を尋ねられたショウブは、
『え~? 見たことあるだろ? 屋根に使われてるんだよ』
と、あっさり答えたが「屋根に使われてる」という答え方は、あまり適切なものではなかったようだ。
クーガーが再び言葉の壁に衝突したわけだが、何とか会話について行けるようになったキンモルが、王国語で何とかクーガーに「瓦」の役割を説明する。
キンモルもよくわからないままに、ショウブの言葉をかみ砕いただけだったが。
そのせいだろう。クーガーは納得しない。
「え? こんなの屋根にあったっけ?」
と、キンモルの説明を受け入れなかった。そうなるとキンモルも後に引けなくなったのだろう。
「それですと、この『瓦』は『瓦焼き』をするために作られた、という事になりますよ」
「それの何が悪いんだ?」
「いえ、調理に使うことが第一だとすると、この『瓦』の形は不安定過ぎるように思えます」
「そんなの屋根に使うのだって同じ理屈じゃないか」
引けなくなったまま、キンモルはそのまま轟沈してしまった。
ショウブに言われたから「そういうものなんだ」ぐらいの理解しかなかったため、それ以上クーガーに説明することが出来なかったからだ。
とはいえ、キンモルとしても嘘を並べられてると思われるのも納得いかないし、クーガーも安易に判断を下さなかった。
そうすると当然、
「明日の朝、確認してみるか」
「そうですね」
ということになる。
これがクーガーがアハティンサル領の住居に興味を持った流れであった。
~・~
そして翌日――
「ああ、確かに瓦だな」
「なるほど組み合わせて、屋根にしてるわけですか」
そういったキンモルの理解の仕方も間違っているわけだが、確かにそういう風に見えるだろう。意識を傾けてみると、整然と並んでいる瓦ぶきの屋根が朝日を浴びて輝く様は、圧倒的でさえある。
それは二人が見上げている建物が、帝国が普請した庁舎であることが理由だった。現在二人は寝るのに王国風の石造りの建物を使用し、その他の作業はこの帝国が残していった庁舎で行っている。
食事に関しても、この庁舎で済ませているのは、用意する者たちがその方が慣れているからである。
図らずも、王国風の建物は私的に使用され、帝国の庁舎は公的な作業をするときに使用する。
――そういう決まりが出来つつあったわけだが……
「こうなると、建てる様子も見たくなってきたな」
突然、クーガーがそんなことを言い出した。
「え? 十分じゃないですか?」
反射的にキンモルが反論してしまうのは、キンモルもまた住居にこだわりがないせいだろう。アハティンサル領の気候が温暖で、ニガレウサヴァ伯領に比べれば圧倒的に過ごしやすいことも、その理由になる。
今も潮風が優しく吹いており、夏ではあるのだが朝の内であることも手伝って、いっそ涼しいと言い切ることも出来るからである。
しかしクーガーはキンモルの言葉に首を捻った。
「多分、十分過ぎるんだよ」
「十分……過ぎるんですか?」
「ああ、帝国風の
「ああ」
そう言われて、キンモルも納得した。
帝国は結構な数の役人をアハティンサル領に送り込んでいたのだろう。だから、それに見合うだけの庁舎を建てたわけだが、人が増えれば、それだけ必要な設備も大きくなる。
その代表的なものが調理室というわけだ。
しかし、そうなると……キンモルの視線が、横合いに建っている王国風の建物へと向いた。
「じゃあ、石造りのこっちの方を使うのはどうでしょう? 王国風ですし、そこまで大きくはありませんし、クーガー様も結局使いやすいのでは」
「それはまぁ、道理ではあるよな」
キンモルの言葉に、頷くクーガー。しかしその表情は、納得したようには見えない。
「それでも新しいの作ってるの見たいんだよな。大きくなくても良いし。それにこの場所にこだわるのもどうかと思うんだよな」
「はぁ。立地の問題ですか」
そう言われると、キンモルにしても改めて反論はできない。いや、そもそも反論する必要があるのか? という疑問に立ち返ってしまう。
それに立地の問題と言われるとキンモルとしても、思うところがあった。
「確かに何だか中途半端ですよね。海沿いは良いんですけど、どうしてこんな崖の上みたいな場所に建てたんでしょう? あ、眺めが良いから?」
「それならさぁ。眺めのいい場所に部屋を作るとかさ。こっちの建物の中、全部見て回ったわけじゃないけど」
とにかく何事も調査が足りないことが浮き彫りになった。
二人はヘーダの登庁を待って、庁舎や住居に関しての調査を本格的に始めることにした。
……これもまた「今更?」等と言われれば、反論のしようもない有様である。
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