第23話【朗報】毒は強いほど美味い法則
ミオが家出するプチイベントはあったが、無事に帰って来たのでヨシ!
遠征に行く前に大量にカレーは作り置きしてたので、外出中にカレーで揉めることはないだろうと僕たちは街を出た。
「すまんな、あいつらを止められずに」
「いいんですよ、僕たちとしてもこれほど受け入れられるとは思っても見ませんでしたから。なのでグロッキーになってる彼らは寝かせてあげてください」
荷車の最後尾に、荷物のように積まれた勇者、剣聖、聖女。
出かける前の希望に満ちた顔は、突如として舞い込んだカレーの発注に忙殺され、見る影もない。
遠征についていくというだけで、やっぱり作り置きしておいてくれと言われて遠征日を一週間ずらすことになったのは流石の僕でも想定外だった。
カレー人気恐るべきと言ったところか。
自分たちで作る分ぐらいだったら、別にどうってことなかったんだけどね。
量が嵩張るとまた違った中毒ができるもので……
「お前と同様に毒には耐性を持っていたはずだろう?」
「実は大量に作ってたら複合毒として未発見の毒素が生まれましてね、あははー」
「笑い事じゃないだろうに」
「彼らは慣れてないので、即座にダウンしましたが、僕は慣れてるので平気でした。最悪死ぬ一歩手前まで行きましたけどね」
「おい」
フレンダさんから鋭い視線で睨まれる。僕が死ぬってことは、蓄積したデバフをその場に撒き散らすということだ。
つまり、あの町が莫大な被害に遭うといううことである。
「大丈夫ですよ、きちんとモノにしましたから。彼らも直に起きてきます」
「ならいいのだが、いや今度はきちんと前もって予約するように言っておく。まさか大量生産で新たな毒が発生するとは思わなかった」
「僕もです。だからこれは新しい知見だ。誰が悪いということでもないでしょう」
「お前も大概だよな」
「僕はか弱い存在ですよ?」
「どの口が言う?」
「この口です」
ああいえば、こう言う。減らず口が絶えん奴めと呆れられながら、僕たちはフレッツェンの西側、カースヴェルト領に近しい森に拠点を張った。
「このテントは軽くて丈夫で便利でいいな」
「ダイゴが作ったんですよ。あいつ不器用そうで、こう言う細かい仕事好きみたいで」
「へぇ、その男は確か……」
「勇者のん能力をもらってましたね」
「自尊心に溢れて天狗になっていた男か。意外な才能もあるもんだな」
「勇者なんて仕事を押し付けられても、平和な世界の住民です。元々争いなんて向かないんですよ」
「そうなのか?」
「僕がそうであるように」
「お前だからこそ、信じられん」
ひどいや。
僕はこんなにも心優しい人間なのに。
フレンダさんてば見る目ないんだから。
テントの設営が終われば、戦士たちはそれぞれの持ち場についた。
遠征といってもキャンプしに来たわけではない。
きちんと怪しい人物が侵入してないかを調べるお仕事があるのだ。
「では、行ってくる」
「行ってらっしゃい。食事の準備はお任せください」
「何から何まで助かる。なんなら手土産にいくつかキノコも持っていくとしよう」
「助かります」
「手に持てそうにない危険物だった場合は……」
「風縛陣ですね?」
「頼めるか?」
そこに閉じ込めてる間になんとかモノにしろよ、と言う話である。
なお、残機は失う模様。残機があるうちは有用だけど、そうポンポン死ねないのが辛いところ。
死ぬのには慣れてきたけどね、難しいよ。
「豪勢な棺桶で頼みますよ?」
「縁起でもないことを言うな、馬鹿者め」
実際、僕が手に負えない毒って致死毒とか神経毒、呪毒とかの類だからね。
Ⅰ〜Ⅲ、Ⅳまでの入手はしたけれど、その上位となると死ぬ可能性がある。
だからこその棺桶の心配なんだけど、フレンダさんには冗談に思われてしまったみたいだ。
「う、ううん……ここは?」
ダイゴが目を覚ました。さすが勇者だ。これでノックダウンしてなければもっと褒めたのに。
「おはようさん。もう昼だけど」
「あれ、俺たち店にいましたよね?」
「昨日の地獄は終わったぜ? 今日から空気のうまい森の中でキャンプだ。ここ数日働き詰めだったろ? のんびり羽でも伸ばすといい」
ねぎらいの言葉をかけてやり、肩をポンと叩く。
「そこまでのんびりできるもんなんです?」
ダイゴに続いて起き出してきたマサキが尋ねてくる。
「のんびりできるかどうかは、君たち次第だ」
僕は真顔で言った。
「アキトさんが死んだら俺たち全滅だもんな」
「僕たち以外、かな?」
「そう言うことだ。この国に居たかったらヘタを踏まないことだね。それとは別に、ここでは新たな味覚の開発を念頭に置く。こっちで食材を集めてもいいが、フレンダさんが持ち帰るものも当てにしていいかもしれない」
「つまり僕たちは当分はご飯係かな?」
「解体や食肉の加工をしてもいいかもね。念入りにカレースパイスを振って」
「それ、僕たち以外が食べたら死ぬやつじゃ……」
「侵入者ってのは嫌がらせでこっちの備蓄を奪うことも当然するんだよ。だからフレンダさんは今回の遠征に僕たちを選んだってわけ」
「実際のところは?」
疑ってるのか、マサキが僕に聞いてくる。
こいつは何かにつけて僕を信用してないんだ。
普段から口でいい負かしてるからか、反骨精神が養われてきているね。
良いことだ。
「デバフが頭打ちだから新しいデバフ欲しいってねだったら誘ってもらった」
「「…………」」
二人してすごい目で見てくるじゃん。
「そう怖い目で見るなよ。実際のところ毒が増えれば食事のレパートリーだって増える。僕たちにとってはいいことづくめなんだぞ?」
「まぁなぁ」
「アキトさんって物は言いようみたいな人ですよね」
「実際にそんなもんだろ、人生? 受け取りようだよ、何事も」
「僕たちまだ学生だから社会のこと、何もわからないけど」
「そんなこと言ってるとすぐに20代を超えておっさんの仲間入りになるぞ? 若い時にたくさん勉強しておけばよかったと思うようになるぞ? 僕みたいに」
「アキトさんはしてないクチだったのか?」
「僕は学生の頃、ゲーム三昧だったからな」
「博識だからてっきり」
「ゲームで得た知識さ。僕はゲーム内でもこんなことばかりしててね、その道のプロ! みたいな人がなんでか集まって、そこで濃いトークをしてたもんさ」
「どんなゲームなんです?」
「ドマイナーなゲーム。もうサービス終了してるよ。僕が割と最後の方の住人だったしね。その時で同接30人くらいだったし、よくサービス続いてるなって真面目に心配だった」
「そんなゲーム知らないなぁ」
「俺たちは2000万ダウンロード! 同接100万人! みたいなゲームばっかりやってたし」
「僕はそう言うの逆にダメだな。人酔いしちゃうからね」
「意外です」
「そうかな?」
「おじさん、おはよう」
「おそようミオ。もう昼過ぎだ。ご飯の支度をするから手伝ってくれ」
「ごめん、寝坊しちゃった?」
「起きてくるのが遅いのは三人一緒なので気にしなくていいぞ。むしろ初めてのデバフを直で喰らってこの時間で復帰できたのは見どころがあるな」
「そう言うおじさんは今まで?」
「ずっと起きてたぞ。と、言うか僕が起きてなきゃ、誰がお前らの世話をすると思うんだ。荷物だって粗雑に扱われてるぞ?」
「ありがとね」
「まずは恒例のカレーの準備だ。野菜の皮剥きを頼む」
「匂いに釣られて、野生動物が集まってこない?」
「釣られてきても中毒で死ぬよ」
「あ、そっか。あたしたちにとっていい匂いでも、野生動物にとっては猛毒なんだ!」
本当にすごい世界で生きてるよな、と思いつつ。
炭焼き代の上に鍋を置いて野菜を煮込み始めた。
「お、やってるな」
そこに禍々しいキノコを持ってきたフレンダさんが汗を拭いながら一仕事終えたような顔で戻ってきた。
手に触ってると言うことは、普通に耐性があったか。
あるいは食べるまでわからないキノコだろう。
「ありがとうございます。あとでいただきます」
「無理はするなよ? 食事をしてくれるのは嬉しいが、オレたちは別にお前たちを危険な目に合わせるつもりはない」
「僕がそんな無理するタイプに見えます?」
「めちゃくちゃ見えるから心配なんだ」
ひどいや。
全くもってその通りなので深く反省しながら追加のカレー鍋を用意した。
僕たちと違って、一般の戦士は撮ってきた肉をカレーに突っ込んで食うのが主流らしい。
カレーで臭み消しもできて一石二鳥なんだって。
とんでもない、死ぬ一歩寸前まである猛毒に突っ込んでいく様は、とても正気とは思えない、やべー集団である。
まぁ僕も人のこと言えないんだけどね。
昼食を食べ終わってから、早速キノコ実食の儀にうつる。
フレンダさんには即座に風縛陣を放ってもらう準備をして、いざ!
「んまーい」
ホッとする面々。
しかし無我夢中でキノコを食べ進める僕を見て、何かを察したフレンダさんが魔法を放った。
この傾向は夢中や魅了に通じる感じだ。
普段杏仁豆腐やマンゴープリンを食べてる彼女だからこそわかる反応で。
僕はすぐに口から大量の血を吐いて死んだ。
出てきたデバフは吐血Ⅴと呪毒Ⅲ、魅了Ⅴの複合毒だった。
やっぱり見た目やばいキノコは食べちゃダメだわ。
でも一口食べた後のクリーミーさは高級な和栗に通ずるものがあったんだよね。
甘露煮やモンブラン好きな僕からして見たら絶品で、あればあるだけ食べちゃうのは仕方のないことだったんだ。
その場にデバフを撒き散らしつつ、風縛陣はまだ途切れない。
その中で僕が起き上がって、出てくるのを待ってから、フレンダさんはそれをカースヴェルトの領内に持ち込んでから破棄してた。
呪毒を最初に持ち込んだのは向こうだから、これは送り返してるだけだと言ってるが、わざわざ穴を掘って埋めないまま来たと言うのだから維持が悪い。
きっとその場で大勢の死者が出ると思うよ?
当分近寄るのやめとこ。
後日、おいしさを生かした甘露煮を作ってやったらフレンダさんが時間を見つけては僕たちのテントに遊びに来るようになった。
僕の死に際を見たのに、大変心がお強くいらっしゃる。
さすがフレッツェンの戦士だ。面構えが違う。
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