第5話【悲報】僕の初任務追放問題

「え、僕の能力を活かすために遠征任務を与えるですか?」


 そんな話が持ち上がったのは、吐血騒ぎが起こって二日目の朝のことだった。

 何度も毒物を混ぜても、刺客を放っても僕がピンピンしていたのでついに痺れを切らしたとかだろうか?


 僕は被害者のつもりでいたけど、もしかして国側は僕が大人しく死んでくれないから追放することにした?


 なわけないか。僕はただ毒物に強いだけの男だ。

 それ以外はなんの役にも立たないしね。


「おっさんよかったなぁ。仕事もらえて」


「そうね、いつもただ飯ぐいで居場所なかったし」


「この国のために働けて幸せだろう!」


 高校生達は明らかに洗脳されてるっぽい言動。

 国のために尽くすのは当たり前という感覚で、働き口をもらえた僕を歓迎していた。まるで働かざる者食うべからずみたいな。まぁ無駄飯ぐらいの自覚はあるんだけどね。

 名誉のために言わせてもらえれば、それでもまだ食生活の違いに不満はあったさ。

 食わせてもらってるだけマシだろうと言われてもな。

 

「しかし解析の能力は鑑定に劣るとおっしゃったのは王女様です。僕の能力はこの国のためにならないとも」


 だから働かなくても構わないだろうと縋り付く。

 いやじゃ、働きとうない。このままタダ飯を食わせてくれ!

 毒物混入しててもいいから!


「実は国境境の村で不可解な事件が起きていまして。そこでは謎の毒物が発生していて、騎士達を無駄に失うわけにもいけず……毒物に強いあなたならと」


 毒物に強い、ねぇ。

 高校生達は皆ピンときてない顔だった。

 僕としてもそれを公表してない。

 いや、したけど取り合ってもらえなかったというのが事実か。


 向こうはそんな事実はないと言っておいたのに、ここに来てやっぱり毒物入ってましたと開き直るつもりだろうか?

 どれだけ僕を追い出したいのやら。


「おっさんが毒物に強いってどういうことだ?」


「さぁ? 僕にもさっぱりだ」


「あ、もしかしてその毒素を解析して、国に持ち帰るのが使命だとか?」


「ああ、あり得そう」


 高校生組がなんとか答えを導く。

 本当にそれぐらい無理矢理でもなければ、僕=毒耐性に食いつかないくらいに日常は平穏そのものなのだ。

 ちょっとばかり僕に対しての殺意が高すぎるだけで。


「確かにそういうのなら得意だな。しかし僕が毒物に強いだなんて相当な思い込みだ。見ての通り、異世界から来たばかりで油っぽいものを食べただけですぐ吐いちゃう虚弱体質だよ?」


「それでも、我々はあなた様に頼るしかないのです。引き受けていただけますか?」


「わかりました」


「本当ですか!」


 王女様は心の底からホッとした顔。

 相当に嫌われたなぁ。

 僕が被害者だと思ってたんだけど、向こうからしたら僕が殺しても生き返る理不尽な存在だと思ってるのかもしれない。


 失礼な。

 こっちだって蘇生できる回数が決まってるんだぞ!

 だからって何度も殺されて、平然としてる僕も悪いんだけどさ。


「ただその前に、同郷の勇者と別れを惜しむ時間をください」


「いいでしょう。しかし一時間までとします。それ以上は待てません」


 それはほぼ待てないと言ってるようなものだが?

 まぁいいか。向こうとしては僕がその時間じゃ何もできないと思ってるからこその時間設定だろうし。


「構いません」


「おっさん、俺たち会って三日目くらいしか経ってないのに別れを惜しむほど仲良くしてたっけ?」


「まぁまぁ。僕という存在がいたことをこれを見て思い出してくれたらいいなと」


 そう言って、僕は庭の土をいじり倒した。

 湖の水を汲んで、その場で練りを開始。

 そこらへんに咲いてる花の蜜を垂らして、よく混ぜてから出来上がった腕輪に塗った。


「はい、完成。手作りのリングだ。この花の蜜が毒物に強く、ここの土が疲労の回復、泉の水は体力の回復効果なんかが秘められてる。これからいろんな戦場で名を上げていく君たちに、先達からのプレゼントだ」


「へぇ、その場でこんなものを作れちゃうなんて、おっさんすげーじゃん」


「キレー、はちみつみたいな色! お腹空いた時にちょっとなめちゃいそう」


「やめとけ、そこら辺の土も材料に使われてるんだ。お腹壊したらどうする」


「ははは。毒物を払う効果はあっても腹痛までは治せないからそこは注意してね」


「おっさんも、まるで死ににいくような言い方じゃんか。すぐに帰ってくんだろ?」


「そのつもりでいるけどね。また会えたら近況報告を兼ねて奢るよ」


「お時間です!」


 予定していた時間よりだいぶ早く時間が過ぎたように感じる。

 実際余計なことをさせないための時間なのに、リングを作って渡すところを見兼ねての打ち切りだろう。余計なことすんなと言ってる側からの余計なことだったからね、


 自分たちで用意させてた装備以外は受け取らないって方針か?

 そのあとは来世か何か知らないけど、僕はなぜか手錠を嵌められて、荷馬車に荷物と一緒に乗せられたのち、目的地に捨て置かれた。


 遠征任務だという名目なのに、護衛なし、手枷はつけられたまま森の只中。

 本当に追放以外の目的はなかったようだ。

 解せぬ。


「ここで死ねってことかな? うわぁ残機ない時にそういうことやられても困るってぇ」


 しかし、謎の毒素が強い森というのは本当だったようで……

 


 ポーン!

【状態異常:神経毒Ⅱを検知しました】

【状態異常:思考誘導Ⅱを検知しました】

【状態異常:魅了Ⅱを検知しました】

【状態異常:昏睡Ⅱを検知しました】


 

 あ、これなら残機増えそう! だなんてことをぼんやり考えながらその場で意識を手放す。

 どうせこれ、死ねば体力も全回復するしね。

 虚弱体質すぎて、最近は復活するのがデフォになってんだ。


 異世界にきてそれもどうかと思うけどさ。



 そしてぐっすり眠ること何時間だ?

 周りはすっかり暗くなり、声が聞こえた。

 時計なんて初日の暗殺の時点で壊された。

 全く、召喚だけしておいて、自分の物差しで使えないなら殺すような国はダメだね。貴重品を軽視しすぎだ。

 どうせ殺すから同じだって? 全く違うんだなぁ。

 それはともかく、手足がふんじばられてる上で、夜とか獣が現れる前触れだ。

 なんとかしないと……手足をばたつかせて、必死にここにいますよアピールをしても……ダメ!


 ここはあまりにも人通りが悪すぎる。

 城の連中、本格的に僕を野垂れ死させるつもりだろ。

 最後の最後まで殺意たっぷりで呆れるよ、ほんと。


「あんた、こんなとこで何してんだ?」


「おや、こんなところに人が?」


 人、というには随分と物々しい雰囲気。

 体を覆う体毛、そして頭部に生えた獣特有の耳から察するに人類種ではないようだ。鋭い眼光、そして漆黒のローブから覗き込む金属鎧。

 間違いなくどこぞの国の抱える騎士だろう。

 抜き身のショートソードが月の光を浴びて禍々しく輝いてるや。

 

 何かの任務でここに派遣されたのか?

 それとも迷子だろうか?

 なんて答えようか迷ってる僕へ、そのケモ耳お姉さんは怪訝な瞳を浮かべながら話しかけてきた。


「なんだ、その夥しい量の血痕は。あんた何か病気持ちとかじゃないだろうな? どこからきた? ことと場合によっちゃ、殺して埋めるくらいの措置は取るぞ?」


 あれ? 僕これこのままだと殺されない?

 出会ってそうそう自由の身! なんてなかったんだ。

 僕は精一杯自信が無実であることを伝えた。


「わー、やめてくれ! 僕はこの通り無実の罪で捕まえられたんだよ! 助けてくれ! 縄を解くだけでもいいから!」


「なぜそのような格好をしてるかの説明せよ。それ次第では縄を解いてやらんでもないが」


 武器は収めてくれたが、未だ警戒を強めるケモ耳お姉さん。

 まぁこんな森の中に夥しい量の血液を撒き散らしてる見知らぬ男がいたら僕だって距離を取るし、普通の反応なんだけど。


 嘘をついたところでいいことなんてないので、ゼラチナス王国にいたこと。

 僕以外に三人の若者も呼び出されたこと。

 自分たちは勇者として呼び出されたことを挙げ連ねた。


 そして『勇者』のフレーズを聞いた途端にお姉さんは目の色を変えた。


「召喚勇者? それは本当か!?」


「ええ、僕はその中では相当にハズレだったのでしょう。食事に毒物を混入させられ、刺客には狙われ放題。こうして何かにつけて吐血する体にさせられてしまいましたよ」


「それはまずいことになったな。ゼラチナスめ、あれで諦めると思ったのに、新たな戦力を増員するとは……よほどこの世界が憎いと見える」


 ケモ耳お姉さんは僕の話を聞いた上で、何かをぶつぶつ言いながらこの場をさろうとする。

 約束と違う!

 話せば縄を解いてくれるって話だったのに!


「ああ! ちょっと待って! せめてこの縄だけでも解いて!」


「お前に恨みはないが、ゼラチナスの手の者と知って、ますます生かしておく理由がなくなった。あの国は勇者を文字通り使い潰してきた国だ。お前は国に洗脳されている。だから言葉を傾けるのも無駄なことだと知っている!」


「その洗脳ならかかってない!」


 お姉さんの目は未だ細められている。

 まだ疑いは解けていない。

 

「証拠は?」


「あの国は僕を殺しても無駄だと悟ったんだ。全ての洗脳を弾き、毒物を退け、そして暗殺しても蘇る僕を扱いきれずにこの場所に捨てた!」


「不死者なら余計に生かしておけわけにはいかないな。生あるものを食らいに出てきたか?」


 すらり

 一度納められたショートソードが再び月光を弾き返して怪しく光る。

 今度こそ僕は切り捨てられるらしい。


「わー、待って待って! 条件があるんだ! 僕自身はその条件下以外で大して強くない!」


 僕は説明を重ねた。

 自分の能力の説明。

 状態異常を検知して、時間はかかるが耐性を覚えること。

 一度覚えた耐性は何度繰り返しても一切通用しないこと。

 そして耐性を獲得した数に応じて死んでも蘇れる残機を得られること。


 フレンドになった対象は自身と同じデバフ耐性を得られることを。

 

「すぐには信じられん」


「すぐに信じてもらえなくても仕方ないさ。僕自身、それで合ってるかわからない。何せこの世界に来て、まだ三日しか経ってないんだから」


「なるほど、まだ召喚されて日が浅いと。名は?」


「アキト」


「異世界人はおかしな名前が多いな。オレはフレンダだ」


「フレンダさん、もしよろしければフレンドから始めませんか?」


「何かのジョークか?」


 面白くないぞ? とその目が再び細められる。


「ああ、違います違います。僕の能力は先ほど説明した限り。僕がどれだけの耐性を得たかをあなたが追体験することで理解して欲しくて。本当、それ以外価値のない男ですから」


「代価は?」


「何も? あ、ただ上限はあります」


「そうか」


 そう美味い話ばかりでもない。

 フレンダさんは目を細め、僕の縄を解いてくれた。


 あの国から比べたら、初手殺されないだけでみんないい人に見えてくるんだから、僕はこの上なくちょろい人種に見られていることだろう。


 僕はその日から、フレンダさんに連れられて獣人の国に居候することになった。



 ────────────────────────────

<データベース>

 向井明人 / ムーン=ライト 23 男

 Ability:解析

 Stock:1

 Friend:4

ーーーーシークレット(明人には見えない)ーーーーーーーーー

 Death:2 【獲得済み濃縮複合デバフ拡散】

 Kill :4,000,000 【※deathによる被害】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<獲得耐性:30>

麻痺毒 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ

幻覚  _Ⅰ

魅了  _Ⅰ_Ⅱ

思考誘導_Ⅰ_Ⅱ

混乱  _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ

自白  _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ

隷属化 _Ⅱ_Ⅲ

神経毒 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ

致死毒 _Ⅲ

石化  _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ

吐血  _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ

全身麻痺_Ⅰ_Ⅱ

昏睡  _Ⅰ_Ⅱ

 ────────────────────────────

※状態異常ⅠとⅡは効果が違うどころか、対処法も全く違うので、数字が大きくなればそれ以下に対処できるというものではないです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る