情報は身を助ける。これはガチ
第6話【悲報】外の世界は危険がいっぱい
「アキト! すぐきてくれ」
「はいはい、今すぐに」
「こいつをどう見る?」
眼前に広がるのは獣の死体の山。
どう考えても毒物を口にして状態異常にかかっている。
しかし、僕の能力はまた違う結果を導き出していた。
「こいつは、操られてますね。魅了、傀儡が複数検知されました。どうやら例の魔導兵器の可能性があります」
「やはりそうか。この魔物の肉体の劣化具合を見てピンときた。しかしお前はどうしてこんなに有能なのに捨てられたんだ?」
フレンダさんはここ数日の僕の働き具合を見て、訝しむ。
そんなの僕が知りたいやい。
「さぁ? きっと頭の中まで脳筋で力こそ正義! だと思ってるからじゃないですかね? 単純に扱い方を知らなかったとか?」
「ははは、オレはひとえにお前の口の悪さが原因じゃないかと思うぞ?」
「僕だって丁寧な対応をしてくれたら、こんな嫌味を言わなくたってよかったんですよ。けどあの国は初手洗脳、無能だと知るなり毒殺、それが叶わなかったので暗殺者を送り込んでくるような念の入れ方。人間不信になったっておかしくありませんよ」
「それを笑いながら乗り越えた奴が何か言ってるな」
言うなや。それはただの結果でしかない。
僕だって紳士的な一面を持ってるんだぞ?
それを活かす機会がないだけだ。
僕は悪くない!
「結果ですよ。結果、生き残れた。僕が生きるのにどれだけ貪欲か、この一週間でわかったでしょう?」
「貪欲、という言葉では言い表しきれないほどの異常な体験を垣間見たな。ゼラチナスの強欲王女がドン引きするのもわかる気がしたよ」
「ははは、またまたぁ」
この一週間、僕はフレンダさんと行動を共にした。
血まみれの服は、何かの病の元になるからという理由で燃やされ、新しい村人ルックに身を包む。
以降は彼女の付き人として行動を共にする。
小遣い稼ぎと、この世界の常識を教わるという意味でも僕から頼み込んでこの地位を獲得した。
彼女はゼラチナスの隣国にあたるフレッツェン獣王国の魔法剣士とのこと。
獣王国と聞いたので、てっきりゼラチナス以上の蛮族が住んでるのかと思いきや、頭部や体に獣的特徴を持ってるだけで、生活基盤は人間とそう変わらないとされている。
いまだその国に赴いたことがないのは、彼女の任務に付き従っているからだ。終わり次第帰国するらしい。
それが先に話した通り。
ゼラチナス以外の国がフレッツェンに破壊兵器を設置した可能性があるという噂の調査のためだった。
死呪術国家カースヴェルト。
呪術や妖術を生業とした後ろ暗い人たちがそれなりの人数集まったから国を起こして周囲に災いを引き起こして、そのまま世界を征服してしまおうと考える、迷惑甚だしい国だそうだ。
そして先ほど見つけた獣の死体は、それの実験材料だった。
だったと言うのは、死んだら操れないからだ。
生きてないと動かせない。生きたまま生かさず殺さず使役するのがあの国のやり口。
そして操る対象は現地調達という非常にエコなやり口で、現地の人間は非常に困っていると言うわけだ。
現地、と言うのがここフレッツェン獣王国な訳なんだが。
なのでフレンダさんのような戦力が派遣されていると言うわけだ。
まるでゴキブリだな。
そしてフレンダさんはゴキブリ駆除部隊。
僕はゴキブリの検知器みたいな扱いである。
「これ単体に夥しいほどの呪いがついてます。近くにいるだけで、随分とデバフを受けました」
「獲得した数は?」
僕から離れたところで彼女は指示出しをする。
単純に、その数のデバフに対応するのに魔道具が一つ必要となる。彼女が重装備に見えたのは、その装備をジャラジャラつけているからだった。
僕ならば多少の耐性はあるからと、残機獲得のために前のめりに獲得しに行くからだと知ってのことだ。
「4つといったところでしょうか」
ほとんどはすでに僕が獲得した状態異常だったので、新規のデバフはそれくらいだった。
それでも上位クラスの腐敗毒Ⅲ、至死毒Ⅳ、石化Ⅳ、麻痺毒Ⅳなどが手に入る。
これらのコツはただ待ってるよりも、調理して食べる方が獲得が早い。
なので炙って塩を振って口にした。
初期症状は石化Ⅰ、Ⅱ、Ⅲを順に浴びてく感じなので、耐性を持ってる間までに決めておきたい。
腐敗毒、至死毒は食えば死ぬ系なので、相殺するタイプの薬草と混ぜて料理した。
少しでも毒素を抜くのが目的だが、それだと解析が遅くなるので、新規獲得するときはいっそ残機を潰して大量に口にするのが吉だろう。
なぁに、残機はまだある。
後々になってこれで困ることがあったとき、なんであの時食べなかったと思ってしまうので、見つけ次第獲得しとくに限る。
後に回したら未来の僕に張り倒されそうな気がするからだ。
僕ならやるという確信があった。
そも、それが得意分野なのに見過ごすという選択肢がなかった。
「それ以外は?」
「まだ1つ、獲得しきれずにいます」
「上位クラスか」
「フレンダさんの上級魔法程度のものですね」
腐敗毒Ⅴ。
僕が今まで受けてきたフレンダさんの魔法と同等の威力と範囲を誇る状態異常。
何が厄介かって? それに感染した時に陥る周囲への被害だ。
今は僕が押さえているが、僕が残機のない時に立ち向かったらまず間違いなく手に負えないタイプの。
「おい。お前が死にたがりなのは知ってるが、そんなものが置き土産として残されてるのは笑えないぞ? オレの上級魔法は広範囲の地域を炎の渦に巻き込むタイプの災害だぞ? それと同等とは、街中に放たれたら壊滅必死じゃないか」
「そうですね。運よくここで見つけられてよかった。燃やすと風に乗って広がるタイプですので、埋めるのが正解です」
「オレ一人だったら、まず間違いなく燃やしていただろうな」
「ええ、そういう分析をするのが僕の仕事ですから。そして、フレンダさんはそこから先の作業を担う。僕は一旦死にますので、少し離れておいてください」
「おい、わざわざお前が死ぬレベルのものなのか?」
「僕の命一個で済むんですから、安いものですよ」
「お前は命を軽率に捨てすぎだ!」
「ははは。そうでもしなければ僕だけではこの過酷すぎる世界を生きていけませんから。それに、あなたのお役に立てるのなら本望ですよ」
そういって、僕はこの世界で5回目の死を体験した。
これは後から知ったことなのだが、僕は死ぬと周囲に今まで蓄積したデバフを撒き散らす二次災害をもたらすようだ。
その肉を食べたものは高確率で死に至り、その死肉を食べた動物も死に絶えるのだとかなんとか。
しかし僕のフレンドにはその状態異常は伝わらず、だからこそ僕が死んでる間は彼女に頼る外なかった。
「だが、よくやったぞアキト! お前の意思をオレは尊重する!」
最上位風魔法『風縛陣』
周囲一体を風のバリアで多い、わずかな塵一つ残さず封じ込める圧殺魔法。
封印魔法の一種で、攻撃力こそないが、相手に何もさせない拘束魔法として機能する。
まぁ、僕はそれでも死なないんだけどね。
なぜかって?
すでに何度か受けて耐性を持っているからだ。
重圧Ⅴ。
これを持ってるからこそ、彼女は僕にそれを打つ。
そして復活した時にそれに抵抗すれば、僕は抜け出せ、それ以外の状態異常はそのまま封印できるというわけだ。
それから穴を開け、地中深くに『風縛陣』でまとめたゴミをポイっと捨てる。
あとは地面を埋めて完了だ。
人力で掘ると、獣に掘り返されてしまうので、こういうときは魔法があって助かった。
「これで脅威は一つ過ぎ去りましたね」
「本当に、カースヴェルトの奴らときたら。粗相をした後の片付けもできないとは、両親から礼節を教わってないのか?」
産道に気遣いと共に置き忘れたんじゃないの?
それを持ってたらこんな傍迷惑なことしないでしょ。
「それにしてもその本体はどこに行ったんでしょうね?」
「どこかで、お前の死体跡地を掘り返して自滅してくれてれば良いんだがな」
「相手はそこまで間抜けですかね?」
だとしたらこんな場所まで駆り出されずに済むんだけど。
僕はこういう仕事も嫌いじゃないが、もっと文化的な生活を望んでる。
それが叶う様子は一向に見られないが。
「さてな、術者は賢くとも、怨霊兵器がそう賢いとは限らん。一度拠点に帰って報告だ」
「しばらくは毒料理ともお別れか」
ほんの少しだけ名残惜しい。
「どうしてお前はそこで気落ちするのか、オレにはわからん。分かりたくもないがな」
「えー、毒料理って美味いんですよ? こう、脳が痺れるような、身体中が沸騰するような心地になって」
「それ、物理的に体が崩壊してないか?」
「まぁ、死ぬ間際に見るタイプの悪夢ですよね」
「悪夢を食レポと同等に語るのはお前くらいだろうよ。言っておくが、お前が今回の調査で密かに溜め込んでた毒調味料は置いていけよ? 誰かが間違えて舐めたら事だ」
「ちぇー」
僕はわざとらしく、唇を尖らせた。
後でこっそり食べようと思ったのにさ。
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