第3話【悲報】国の殺意高すぎ問題
ステータスを前に開示した高校生達とは別に、のくには特別メニューが科されるようだった。
どんなのだろうと思っていたら、普通のお茶会ですごく拍子抜けしたのを覚えている。
「いやぁ、いいのかな。僕だけこんなにくつろいじゃって」
「無駄口を叩くな、最後まで全部飲み込め!」
こわーい騎士さんが、僕の食事を見守ってくれてる。
刺しても死なないから、どうやって殺そうか必死に考えてくれてるんだろうね。無駄な努力ご苦労様。
紅茶を飲む。スコーンを口に放り込む。
出る話出るわ、状態異常検知の数々が。
ポーン!
【状態異常:自白Ⅱを検知しました】
【状態異常:隷属化Ⅲを検知しました】
【状態異常:石化Ⅰを検知しました】
【状態異常:吐血Ⅰを検知しました】
【状態異常:吐血Ⅱを検知しました】
【状態異常:吐血Ⅲを検知しました】
【状態異常:全身麻痺Ⅰを検知しました】
【状態異常:石化Ⅱを検知しました】
【状態異常:昏睡Ⅰを検知しました】
【状態異常:昏睡Ⅱを検知しました】
これは僕が状態異常耐性スキルを獲得してるのが相手にバレてるね。
まぁ窒死毒Ⅲなるものを出してきて、仕留めきれないんだからバレていてもおかしくはないか。
手を替え品を替え。あらゆる毒物での検証を行なってるように思う。
この一時間だけですでに十種類の状態異常を取得した。
やったね! 残機が増えたよ。
中には殺意が高すぎる代物もあったけど、無事乗り越えられた。高校生チームからは訓練中にのんびりお茶を啜る僕を咎めるような声が上がったよね。
「おっさん、能力が役に立たないからって、目に毒なことすんなよ。なぁ、あんたら俺らにもそういうの用意されてるの?」
「今ご用意しますか?」
「早くな」
テーブルから一つ残さず僕へ出されたお菓子やお茶が持ち運ばれた。ちょっとでも残って高校生達の口に入ったら国は大きな損失を被ることになるからね。
「何も全部引き下げちゃうことないのにねー?」
女子高生がまだ残ってたスコーンやジャムを恨めしげに眺めていた。
この子はそういう食い意地の張ったことでこの先命を落としそうな危うさがあるよね。
他の二人も同様だ。
「ところで、今日はどんな訓練してたんだ? 君たちは見たところ武道に精通しているふうには見えない。多少はスポーツをかじってるけど、大会で優勝できるほどじゃないだろ?」
「痛いところをついてくるな、おっさん。全くもってその通りだよ。剣聖だなんて肩書をもらったが、実際に武器を振るうだけで体力を全部持ってかれちまった。けど、最初だけだぜ。降ってるうちにコツを掴んだ」
「さすが剣聖。でも一歩目はどうしたってつまづくのは仕方ない。幼い頃からその道に精通してるわけでもないからな」
「ゲームだったら上手く扱えるんだけど、実際に振るうのはやっぱり感働が違うな」
「そりゃゲームには疲労も重さも本人に何も伝わらないからな。モンスターをハントするやつの武器が実際にあったら、何の素質もない人間が扱えると思うか?」
「扱える気はしねぇな。あれはゲームがそういうものだからそう思ってただけか」
「そうそう。実際は扱うのがすごい難しかったりするんだよ。剣とか弓、刀なんてその最高峰じゃないか?」
「おじさん、博識だねー」
「僕は流通関係の仕事をしてるからね。商売柄、そういうのを触らせてもらう機会があるんだよ。ゲームで振るってた経歴なんて何の自慢にもならないってそこで痛感したね」
「ギャハ、おっさん偉そうに語っといて俺らと同じ辱め受けてんじゃん! ウケる」
「語るに落ちたな」
「社会に出る前に知れてよかったろ? 経験者は語るってやつだ。もしコレで大見得切って、実際に戦場で扱えませんでしたーハ大恥どころじゃないからな。戦場じゃ戦えない奴から命を落とす。たいそうな肩書を持ってたって、戦いの場では命は一個だ。ゲームみたいにやり直しはできないぞ」
「う、そりゃそうだけどよ」
「おっさんは何かいいアイディアでもあるのか?」
「聞きたい聞きたーい」
「僕に異世界の知識なんてあるわけないだろ? だから教えてもらえるうちに教わろうとする姿勢を見せておくことだ。ここは学校じゃない、お金を払ってくれる親も、責任をとってくれる大人もいない。今わがままを言った分、後で全部自分に戻ってくるんだ。君たちはまだ国に大切にされてるからいいけど、僕には何にもないんだぜ?」
「その分、楽させてもらってるんじゃないの?」
女子高生が先ほどのスコーンに思いを馳せる。
あれは自白Ⅱ、昏睡Ⅱ、石化Ⅰの複合毒が入ってたからやめた方がいいぞ?
特にジャムは吐血Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのフルコースだ。
生きて返すつもりはないという覚悟を見せてきたからな。
本当に何で生きてるのか、僕にもわからないほどだ。
「お待たせしました、勇者様方」
先ほど持ってくるように頼んだお茶とスコーンのセットを持ってきたのはお姫様の一行だった。
僕を見るなりとても嫌なものを見るような顔になったのは忘れようもない。
また今晩あたり狙われるかもね。
「あ、ライム姫様だー。姫様もお茶休憩?」
「そんなところです。それよりもムーン様、いい加減に能力を開示していただけませんか? こちらとしても専用の訓練メニューを提示できずにおります」
「おじさん、そろそろ明かしてもいいんじゃなーい?」
「明かせない時点で察してほしいな。多分僕の能力はこの国の求める戦力になり得ない。だから料理から変な味がする。それがこの国の答えじゃないの?」
「どうゆうこと?」
「ムーン様、こちらにご無礼があったのなら改めます。ですがこちらを一方的に悪者扱いされるのは不快です。何か勘違いされているのではないですか?」
「まぁ彼らの前ではシラを切るだろうね。だってあなた達は清廉潔白で、悪魔の軍勢に追いやられてる可哀想な人たちを演じなければいけないから。昼間っから勇者に訓練をつけてる余裕はなく、僕のような無駄めしぐらいに関わっている時間もない。早く戦力を確保して、悪魔の軍勢……だと思い込ませてる相手国を攻め滅ぼしたいんだもんね」
僕の例え話が図星だったのか、姫様の表情には影が射し、ニコニコしていた女中は殺気立ち、騎士達は武器に手をかけた。
あからさまに僕の命を切り捨てる気配のそれだ。
「やだーおじさんたら陰謀論者? ライム姫様達がそんなこと企んでるはずないじゃーん」
「そ、そうですわよムーン様。冗談でも言っていいことと悪いことがありますわ」
しかし当の高校生は僕の例え話を信用しようともしない。
それで完全に警戒が解けた。
相手国の警戒。
それは僕と高校生が仲良しで、僕のいうことなら高校生がなんでもいうことを聞くと思っていることだった。
「そうだぜ、おっさん。そりゃ考えすぎだ」
「昨日の豪勢な食事を食えなかった腹いせに悪者に仕立て上げるなんて人が悪いぜ」
「はははジョークだよジョーク。悪いね、ちょっと拗ねてたんだ。だって僕と彼らの待遇があんまりにも違うもんだからさ。きっと彼らはこの国に絶対に必要な人物で、僕はいつ切り捨ててもいい人物だと悪い考えを過らせちゃうんだよね」
「おじさんは会社で辛いことがあったからって悪いふうに捉えすぎ。おじさんが能力を開示しないからライム姫様も待遇をどうしようか決めかねてるだけだって」
これだ。この話を引き出したかった。
仲間ではない高校生。
しかし顔見知りでよく話をする関係性を築いた僕たち。
昨日のうちに始末できなかった時点で、明日急にいなくなったら不審がるように仕向けた。
お姫様が、場を取り繕うと女子高生に話を合わせる。
僕はそこまで話を引っ張り出した上で『無能確定』の能力の開示をした。
「解析? それって何が強いの?」
高校生達にはこの能力の恐ろしさがまるで理解できていないようだ。
そして国の連中も、当てが外れたみたいな顔。
ではどうやって毒物と暗殺者を退けたか?
当然そこまで答え合わせをするつもりはない。
「たとえばこの庭の雑草、微弱だが毒がある。もし誤って口に含めば大変なことになる」
「鑑定みたいなスキルってこと?」
「でも調べられるスキルってだけなら国は欲しがらないかもな」
「俺は勇者、将生は剣聖。美桜は聖女だ。そこに鑑定持ちがついてきても邪魔にしかならないと思うぜ?」
高校生の一人がゲーム的な解釈を僕に告げる。
確かに人生をやり治せるゲーム的な尺度で見ればそれが正解だろう。
だが一つの不注意で命を落とす戦場だったらどうかな?
「鑑定よりは細かく調べられるね。たとえばそこの騎士さんの防具はミスリル製の20年もの。手入れはされてピカピカだけど、魔力の循環が停滞されてるので魔法の弾き具合がイマイチになっている。これは調整を任された鍛治屋が手を抜いた、あるいはそこの騎士さんが賃金を出し渋った影響が出てるな……とかね」
言い当てられた騎士が、思い当たる節があるのかその場で直立不動になる。もう僕に注意を向けていられるような状況ではなくなったようだ。
「え、え! じゃああたしの杖は?」
女子高生の支給品の武器を解析する。
「練習用の杖。出力は中級魔法程度まで抑えられ、上級を出そうとすると壊れる。あとは戦意高揚の効果がついてるね。血を見ても怖がらない。そういう効果付き」
「へぇ、支給品でも効果がついてる武器なんだ! どうりで大吾が出血してても冷静に回復魔法を使えたわけだ。納得!」
そこから先、僕の解析スキルが火を吹いた。
国戦力には全くならないと判明したが、高校生チームからそれなりに評価をいただけたのは予想外だったな。
その日の晩、僕は案の定血を吐いて、残機を一つ潰した。
睡眠中に毒を仕込むなんて酷いや。
そんでもって念入りに刺殺。
そんなに僕が憎いか。
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