ザ・グレート・キュッチャニア
あちこちにサビの浮いた前時代の遺物、超弩級戦艦グレート・キュッチャニアの艦内で、提督モモンガは物思いにふけった。
このかろうじて浮いているだけの戦艦は、まさにキュッチャニア海軍の象徴だ。
華々しく戦うことも、海に出ることもない。
そうだ、洋上試験中に機雷に接触し、命からがら港に戻ってきて以来、この艦は海に出たことはない。
それからは港に浮かんだまま、海軍司令部として使用されているが、それももう限界だ。
老朽化した船体の拡張余地は使い果たしてしまったし(更新され続ける通信設備の入れ替えは想像以上に困難を伴うのだ)、この錆臭い空気にはもう耐えられない。
新市街地に建築中の海軍総司令部へ移るのが待ち遠しい。
「きゅー・・・」
世が世なら、海軍軍人の誰もが目指した超弩級戦艦に乗っていながら、こんな事を考える自分にふと、複雑な思いを抱く。
「もっとも、もう世界の海を巡る大冒険を夢見る歳でもないきゅ」
海軍将校用の帽子を手で回しながら、そんなことを思った。
何度かこの戦艦を有効利用できないかと地上砲撃作戦なども立案されたが、戦艦単独でできることなどたかが知れている。
護衛艦を作らずに戦艦だけを建造した当時のキュッチャニア海軍は何を考えていたのだろうか。
たぶん、何も考えていなかったのだ。
だいたい二度目の世界大戦の終結後に戦艦を建造するというのがどうかしていた。
新しい海軍司令部が完成したら、この戦艦は記念艦として退役する予定だ。
退役させたとしても維持費は海軍が出すことになるだろう。
ただでさえ陸軍、空軍、そして空挺軍、に比べて冷遇されている海軍にとって、使えもしない戦艦の維持に予算を奪われ続けるのはたまったものではない。
「やはり退役後の処遇については総統府を説得する必要があるきゅー」
提督はそう結論付けた。
「当番兵くん、総統府へ行くきゅ。車を用意させるきゅ」
提督は立ち上がって部屋の外へと声をかけた。
「了解ですきゅー」
当番兵のモモンガが応えた。
ついでに司令部の視察にも行っておこう、うん、それがいい。
はやく鉄と錆の匂いから開放されて、エアコン付きの執務室でのんびりしたいものだ。
提督はそう思った。
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