延命策
北部国境線での空中戦の一方的な敗北は、キュッチャニア空軍と総統府に衝撃を与えた。
根本的対策としては新型戦闘機の配備となるが、こちらは未だに年産数機という有り様なので今すぐにどうこうできるものではなかった。
そもそも、旧式化したKF-27戦闘機が未だに生産されているのもこのためなのである。
「KF-27の近代化改修でしのげないかきゅー?」
「KF-32ともKF-27とも違う電子装備を積むきゅー?そんな開発をする余裕はないキュ」
「レーダー出力をブーストすればギリギリ探知できるかもしれないきゅ」
「レーダーロックは出来ても長距離ミサイルがないキュ」
「アフターバーナーで近づくしかないきゅ」
「スクランブル発進時に敵の倍数以上を発進させ、母機を叩くのはどうだきゅー」
「きゅぶ・・・」
「少なくとも一方的にやられるだけではないことを示せるきゅー」
「半数を犠牲に長距離ミサイルを無力化出来ても、近接戦闘でも負けたらどうしようもないきゅ・・・」
「それなら3倍だきゅ!とにかく敵戦闘機を撃墜できれば当分の間は攻撃できないきゅ!」
「ノース・モング基地の総力がそれで消えて無くなるきゅ・・・」
「ほかに方法がないなら、それしかないきゅ。
ただしノース・モング基地以外からも戦力を出すキュ」
空軍司令官は厳かに言った。
作戦の基本骨子は決まり、機体の能力強化も同時に行われることになった。
特別仕様機はKF-27C-2SPの形式番号を与えられ、レーダーを改造することになった。
もちろん定格外の運用になるのでレーダーは必要なときにだけ発信し、長時間の使用は厳禁とされた。
レーダー自体が破損する恐れがあるためだ。
「うまく行けばレーダーロックだけで敵を追い返せるかもしれないきゅ」
「新型のKF-32と誤認するかもしれないきゅー」
という楽観的な意見もあったが、基本的には、まず一隊が長距離ミサイルで壊滅し、次に接近した2隊のうち片方が空中戦で撃墜される・・・という予測が大方のところだった。
「本当ならミサイルももっと長射程で誘導性能の良いやつがほしいきゅー。当たらなかったら全滅だきゅー」
最も悲観的な意見としてはこのようなところだった。
「そもそも国境線でこんな大々的な戦闘をやって国際問題にならないきゅー?」
「先に撃ってきたのは向こうだきゅー!」
「向こうのバックには西側がついてるきゅー・・・」
作戦決行が決まっても、それは空軍だけの話で、政府上層部では作戦の是非について大いに揉めていた。
「KF-27C-2だって貴重なんだキュ。
そのほとんどを投入して、撃墜されるのが前提なんて困るきゅー」
「空軍は意地だけで動いてるきゅー」
「いっそのことKF-32を迎撃に向かわせたらどうだきゅー」
「撃墜されたらなんの対抗能力もないことになってしまうきゅー!」
わちゃわちゃと政府側の態度が決まらないまま、次のスクランブル発進の時が訪れてしまった。
「不明機4機が国境に向け飛行中、機体規模及び隊形から長距離ミサイル搭載機と推定、特別スクランブル部隊発進きゅー」
KF-27C-2SPが4機、整然と発進していく。
パイロットも、もちろん基地内で最高のモモンガたちが集められている。
「こちら空中管制機"エリンギ"、ノース・モング・スクランブルは高度8000でNV4ビーコンに向かうきゅ。
キュブリ・スクランブルは低空飛行でNV6ビーコンを経由し迂回経路でNV4ビーコンへ向かうきゅ。
キュブーズ・スクランブルは低空飛行でNV8ビーコンを経由し迂回経路でNV4ビーコンへ向かうきゅ。
会敵予想地点はNV4ビーコン南、各隊は到着予定時刻を厳守するきゅー。
会敵するまで各隊の無線送信は作戦遂行上の緊急事態を除き完全封鎖するきゅ」
ノース・モング基地のスクランブル隊はNV4ビーコンへ近づきつつあった。
ノース・モング・スクランブルは完全な囮として敵を誘い出し、長距離ミサイルを撃たせる事が目的だ。
ノース・モング隊が敵を引き付けている間に、左右からキュブリ基地と、キュブーズ基地から発進した別働隊が急上昇して敵を挟み撃ちにする作戦になっている。
残念ながら、ノース・モング隊に復讐の機会はない。
「こちら空中管制機"エリンギ"、まもなく会敵予想地点、敵は依然南下中きゅー」
隊長機が軽く機体を揺さぶって部下にレーダーをオンにするように合図を出した。
敵機をとらえるというよりも、飛んでくるミサイルを見つけるためだ。
警戒装置のランプが付いた。
無線封鎖を解除して叫ぶ。
「レーダーロック!レーダーロックきゅー!」
「ノース・モング・スクランブル、エンゲージきゅー!
キュブリ・スクランブルと、キュブーズ・スクランブルは直ちに急上昇して攻撃に移るきゅー!」
「見えたきゅ!敵機だキュー!」
キュブーズ・スクランブルのモモンガが叫んだ。
本当に見えたわけではない、レーダーに光点が映ったという意味である。
「でかしたきゅ、全機アフターバーナーで近づくキュ!」
いつもどおりの一方的な狩りのつもりだった敵編隊は、罠に誘い込まれたことに気づいた。
突然左右に新しいキュッチャニア空軍機が出現したのだ。
「全機、全力で退避!全力で退避!」
「隊長、数は多くても相手は旧式です、やれます!」
血気盛んなパイロットの一人は反転して離脱しようとする編隊から離れて、キュブーズ・スクランブルの方へと向かった。
「1機突っ込んでくるキュ!」
「ロックオンしたキュ!」「ミサイル発射きゅー!!」
突出した1機に向けて4発のミサイルが放たれる。
2発は外れたが、残りの2発のミサイルが敵機を撃墜した。
引き換えに、敵機の放ったミサイル2発は2機のKF-27を撃墜。
キュブーズ・スクランブルの戦闘はここまでだった。
残りの敵機は追跡可能な距離を離脱した。
キュブリ・スクランブルにいたっては速度不足で会敵に失敗した。
敵機自体の性能が不明だったため見積もりが甘かったのだ。
囮となったノース・モング・スクランブルは長距離ミサイルにより2機が撃墜された。
なんとか一矢報いたととらえるか、たまたま運良く撃墜できただけだと考えるべきなのか、議論は紛糾した。
とはいえ敵による越境攻撃の頻度はずいぶん大人しくなったので、空軍はこれをもって作戦の成功を主張した。
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