インターセプター
「所属不明機が国境に接近中きゅー、待機中の戦闘機は迎撃に向かうきゅー」
待機所でのんびりと過ごしていたモモンガたちは、スピーカーから流れる命令を聞くと、いそいそと駐機中の戦闘機へと向かった。
小さい手足で器用にステップを登るとコクピットに滑り込んだ。
「燃料満タン、武装はガンポッドと対空ミサイル2発きゅー」
整備のモモンガが機体の状態を報告する。
「了解きゅー」
整備モモンガの差し出す機体整備記録簿と、ミサイルから外した安全ピンを確認するとパイロットモモンガは機体の始動手順に入った。
「APU作動、スロットルロック解除、スロットルアイドル位置へ・・・」
整備モモンガは急いで乗り込み用のステップを外し、機体から離れる。
周囲を見回して整備員と障害物がないことを確認したパイロットはエンジンを始動した。
滑走路脇に並んだKF-27戦闘機から次々にジェットエンジンの甲高い始動音が放たれる。
「不明機は進路を変えず国境に接近中、迎撃機の離陸を継続するきゅ」
「了解きゅー」
返答を返しながらコントロールチェック、スティックとペダルを動かして動翼が動くことを確認する。
問題なし。
「1番機、始動完了、離陸許可を要請するきゅ」
「1番機の離陸を許可するきゅー。離陸後は6000まで上昇のあと、北へ向かうきゅー」
「1番機、了解きゅー」
駐機ブレーキを解除し、出力を少し上げて、滑走路へと機体を進める。
滑走路上を見る、問題なし。
「1番機、離陸開始きゅー」
フルスロットル、爆音を放ちながら機体が急加速する。
十分に速度が出たところでスティックをゆるく引き寄せ、上昇する。
そのまま真っ直ぐに飛行しながら目標高度へむけて飛び続ける。
目標高度到達、スティックを戻し、スロットルを緩める。
今度は機体を傾けて北へ向けて旋回。
旋回しながら下を眺めると、上昇中の2番、3番機を視認。
「4番機、エンジン不調のため離陸中止きゅ。3機で不明機迎撃に向かうきゅ」
「了解きゅー」
「2番機、位置についたきゅー」
「3番機、目標高度に到達、旋回を開始きゅー」
「1番から3番へ、旋回後に加速して位置に付くきゅ」
「3番機、了解きゅー」
「ノース・モング基地管制塔より迎撃機各機へ、以降の指示は空中管制へ引き継ぐきゅー、無線チャンネルは4番だきゅー」
「了解きゅー」
無線機のダイヤルを回して接続チャンネルを切り替える。
「こちらノース・モング基地スクランブル隊きゅー、聞こえるきゅー?」
「こちら北部方面軍空中管制きゅ、ノース・モング・スクランブルを確認したきゅ。
不明機は高度8000付近で飛行中きゅー。
ノース・モング・スクランブルは高度を8600に上昇しつつNV4ビーコンを目指すきゅ」
「高度を8600に上昇、進路はNV4ビーコン了解したきゅ。
不明機の情報はあるきゅー?」
「数はおそらく4機きゅ。機種不明、トランスポンダー応答なしきゅー」
「付近に他の味方はいるきゅー?」
「KF-21Dが高度2000付近に2機、不明機との予想接触空域からは退避中きゅー」
「了解きゅー」
スクランブル隊はNV4ビーコンへ接近した。
「こちら北部空中管制きゅ、ノース・モング・スクランブル、間もなく不明機と接触するきゅ。
不明機は11時方向、警戒するきゅー」
「了解きゅー」
機首を11時方向へ向ける。
レーダーにはまだ何も映らない。
現在位置は国境の手前側のはずだが、地続きの係争地なので油断はできない。
そもそも今の国境線はお互いに主張し合っているだけの、空虚なものに過ぎないのだ。
見下ろす限りの砂漠地帯に、線もなければ目印もない。
キュッチャニアはこの砂漠の先にある油田地帯を虎視眈々と狙っているし、相手の猫耳たちはオイルマネーでかき集めた装備で武装している。
「こちら2番機、レーダーロック警報が鳴ってるきゅー!」
「こちら3番機、こっちのレーダーにはまだ何も・・・キュブーッ!」
レーダーに極小の光点、対空ミサイルだ。高速で接近する。
「全機回避行動きゅー!空中管制へ、敵機が対空ミサイルを発射したきゅ!」
「ノース・モング・スクランブルへ、交戦許可が出たきゅ!」
「こっちのレーダーには敵機が映ってないきゅ!情報はないのきゅ!?」
「KF-27のレーダー有効範囲外だきゅ!目標は旋回して離脱するつもりだきゅ!」
機体を急降下させて機体の耐えられる限界速度まで加速、同じく設計限界ギリギリの左旋回、続いて右旋回。急上昇。
のたうち回るようにして、自分めがけて飛んでくる2つの長距離対空ミサイルを回避。
レーダーロック警報はすでに消灯、レーダーに光点なし・・・。
「1番機より各機へ、生きてるきゅー?」
機体を立て直し、水平に戻す。
「ノース・モング・スクランブル、こちら空中管制、敵機は空域を離脱したきゅ。君の部下は、おそらく撃墜されたきゅ」
真っ先に狙われた(敵のレーダーに引っかかった)2番機はミサイルに対応する間もなく撃墜された。
3番機は急上昇してミサイルを回避しようとしたが、上昇中にエンジンがフレームアウト、上昇速度が足りず下方で発生したミサイルの爆発に巻き込まれ機体後部を損傷、一転真っ逆さまに地面に墜落した。
1番機も、空中管制も、その詳細は知る由もない。
「ノース・モング・スクランブルへ、国境を越える許可は出ていないきゅ。基地に帰還するきゅ」
「・・・了解だきゅー・・・」
北部方面での空中戦はキュッチャニア側の惨敗に終わった。
空軍も総統府も、KF-27(特にエンジンを換装されていない初期型)の性能不足をあらためて自覚したが、それをわかったところで、すぐにどうなるというものでもなかった。
後継機となるKF-32戦闘機はすでに開発されていたが、あまりに高度すぎて未だに量産体制が整っていなかった。
現実には、総統府直属の首都防空隊に数機が配備されているに過ぎないのだった。
こうした一方的な戦闘はその後も度々発生し、スクランブルの度に数機の迎撃機とモモンガが失われた。
ノース・モング空軍基地に最初のKF-32戦闘機が到着するのは更に数年後のことだった。
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