終わりなき戦い 後編

「少尉、君の着任から第2小隊の弾薬消費量がずいぶん増えたきゅ」

「訓練をしているもので、実弾を使わないならもっと日数がかかりますきゅ」

「きゅぶぶぶ」

中隊長が唸った。少尉はどこ吹く風だ。


「とにかく、攻勢までには小隊を使える状態に持っていきますきゅ」

「中隊長、少尉の言うようにやらせるキュ」

椅子に座って葉巻を吸っていたモモンガが割って入った。

「モモリス大佐」

「攻勢も近い、物資の優先度は上に掛け合っておくきゅ」

「ありがとうございますきゅー」

「少尉、小隊に戻って部下の準備に戻るキュ」


少尉が退室したあと、中隊長室にはモモリス大佐と中隊長が残った。

「大佐、あの少尉はなんなんですきゅー?」

「経歴を見なかったのきゅー?元々大尉まで上り詰めたやつだきゅ。

上に気に入られたのか、気に入られなかったのか、少尉降格のうえに激戦区を転々としてるきゅ」

「きゅー」

「迂闊に邪魔をするとこっちまで火の粉が飛んでくるきゅ」



「中隊長殿と話はつきましたきゅ?」

「あまり有能とは言えなさそうだきゅ」

「いい中隊長じゃないきゅ、少尉が中隊長ならきっともっと楽だきゅ」

少尉は伍長の運転する4輪駆動の軍用車で中隊本部から陣地へと帰るところだった。

「連隊長まで顔を出していたところを見ると、そろそろやる気らしいきゅ」

「きゅー」

伍長にとって連隊長は雲の上のモモンガであった。顔も思い出せない。

「そろそろ車は降りて、歩いていくとするきゅ」



「少尉、ご無事で何よりですきゅ」

「そろそろ攻勢が近いきゅ。小隊の準備はどうだきゅー」

「先々週届いたモモンガまではどうにか使えそうですきゅ」

「十分だきゅ。完璧を目指しても始まらないきゅ」



「方面軍からの増援が到着するきゅ。我が小隊には歩兵戦闘車小隊と、迫撃砲小隊が付くきゅ」

「きゅー」

「他の小隊も状況は似たようなものだきゅ。山登りに備えておくキュ」



「歩兵戦闘車小隊が移動中に砲撃されて壊滅だきゅー!」

通信室から飛び出してきたモモンガが叫んだ。

「伍長、様子を見てくるきゅ!」

少尉はすっかり便利屋になった伍長に命令した。



「便乗してた迫撃砲隊も一緒に燃えちゃったきゅー・・・」

生き残りのモモンガを引き連れてきた伍長は言った。

少尉は無意識に尻尾を丸めながら報告を聞いた。


「中隊長、我が小隊の増援部隊は移動中に壊滅しましたきゅ・・・」

少尉は野戦電話で状況を報告した。

「小隊長、他の小隊にも被害が出ているきゅ!攻撃は中止して陣地の死守に務めるキュ!」

慌てふためいた中隊長の応答が電話から聞こえる。電話はそれだけで切れてしまった。

「どこも同じらしいきゅ」

少尉は顔をしかめた。



この攻勢作戦の頓挫で東部方面軍は大きな打撃を受け、当分の間は身動きが取れなくなった。

東部方面軍の指揮官も多くが処分を受けた。

内戦は、未だに続いている。



後日 前線陣地

三匹のモモンガが雑談していた。

「少尉が中尉になっちゃったきゅ」「えらいきゅー」

「やっぱり有能なモモンガが昇進するべきだきゅー」

「曹長も野戦任官で少尉になっちゃったきゅー」「すごいきゅー」

「伍長は伍長のままだきゅ」「すごくないきゅー」

「うるさいきゅ!」

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