終わりなき戦い 前編

キュッチャニア東部の山岳地帯、タヌキスタンとの国境付近。

この一帯は逃げ延びた反政府勢力の勢力圏となっていた。

北部の国境線と共に、キュッチャニアにおける激戦区として知られている。



「新任の少尉と、補充の新兵が到着する予定だきゅー。受け入れの用意をするきゅー」

中隊長は野戦電話で、臨時の小隊長を務める曹長にそう伝えた。


「今度のは歓迎の迫撃砲でやられないと助かるきゅー」

軽口をたたく部下をジロリと睨みつける。

確かに、前回は到着早々にトラックごと迫撃砲弾の直撃を受けて戦死してしまったので、言っていることは間違ってはいない。

もちろん、中隊本部もそれを繰り返す気はない。もっと後方でトラックから降ろして前線陣地まで歩かせる事にしていた。

「迎えに行ってやるべきだきゅー」

遭難されても逃亡されても面倒なことになる。そうするべきだと思った。

「古参兵を何匹か集めて迎えに行かせるきゅ。伍長、お前が行って来いきゅー」

「きゅぶー」

「返事は"了解"以外ないきゅ」

「了解きゅー」


曹長はそれから陣地を回ってそれぞれの状況を確認しつつ、新任の少尉が到着することを伝えた。

(補充兵については、ほとんど毎日のようにトラックで運ばれてくるので、いちいち説明したりはしなかった)



一方、出迎え役を押し付けられた伍長も、気の知れたモモンガを2匹ほど選ぶと、トラックの到着予定地点へ向かった。

「だいたい、訓練もしないでそのまま前線に送ってくるのが悪いんだきゅ」

「言えてるきゅー」

「陣地だって、こんな山から見えるところに作らなくても良かったんだきゅー」

曹長・軍曹連中の目の届かないところなので愚痴にも花が咲く。


この前線陣地は山岳地帯のちょうど裾野の辺りに構築されていた。

当時から位置が悪いとは思われていたが、反政府軍がここまで積極的に攻撃を行うとは想定していなかったのだった。

反政府軍の規模が当初よりも増大していることも頭の痛いところだった。


「今度来る少尉はどんな奴なんだきゅー?」

「ここに来るんだから、運の悪いやつに違いないきゅー」

「きっとくじ引きで負けたんだきゅー」



「きゅー」「きゅー」「きゅー」

新任の少尉に対面したモモンガたちは一様に目を丸くした。

少尉は自分たちよりも古参兵らしい堂々とした出で立ちだった。

榴弾砲の破片を食らったらしい顔の傷がその印象をより濃くしていた。


「出迎えご苦労きゅ。陣地まで案内してくれきゅー」

少尉はあくまで堂々として言った。



「すると司令部は攻勢に出るつもりですきゅー?」

曹長が唸るように聞いた。

「そう聞いているきゅー。その前に、この小隊を使えるようにする必要があるきゅ」

「キュー」

伍長が茶化すように鳴いた。

「伍長、君にも教育が必要なようだきゅー。

曹長、とにかく徹底的に新入りを鍛えて使えるようにするきゅー。

山の上まで装備を持って一息に走れる程度に持っていきたいきゅ」

「了解ですきゅ」


「とにかく、この地形では追加投入の機甲部隊は大して役に立たんだろうきゅー、歩兵隊でけりを付けるしかないきゅ」

「この小隊だけでは苦しいですきゅ」

「方面軍から近い内に援軍が到着する予定だきゅ」

「長引くと補給が困りますきゅ」

「そこだきゅ。そもそもトラック輸送ができなくなったことが今回の攻勢の理由だきゅ。失敗すればこの陣地まで反撃されるきゅー」

「きゅぶぶぶ」

「この終わりなき戦いに、けりを付ける時だきゅ」


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