次世代戦略管理システム
「このように」
技官モモンガがタッチパネルをスーッとなぞって見せる。
画面上で技官の触れた四角いアイコン(中には兵科記号と部隊番号と部隊規模、充足率が表示されている)がそれに従って動いた。
「直感的に部隊編成を行えますきゅー」
ポイッとより大きなアイコン(連隊を表している)の中に、先ほどのアイコン(こちらは大隊を表している)を放り込みながら技官は言った。
「きゅー」「すごいきゅー」
プレゼンを聞いている軍人モモンガの中からちょっとした驚きの声が上がる。
「誰もが考えることを具体化したまでですが、その効果は確かですきゅー」
技官はそっけなく現実を述べた。
キュッチャン総統は要望通りの物が出来上がっていることに感心しつつ、「ちょっと面白みがないな」と思っていた。
「この部隊名をタップすると、名前を変更できますきゅ。
そして、ここから、命令を作成できますきゅー。
何がうれしいかというと、このように上部部隊から末端部隊まで、必要な部隊名が自動入力されますきゅ」
命令書の書式が画面に表示されると、先ほどよりも実感のこもった声が上がった。
「べんりきゅー」
「ここから命令書を送信もできますし、印刷もできますきゅ」
「きゅー」
「部隊の行動に必要な物資の概算もここに表示されますきゅー」
「きゅー・・・」
そこに表示される数値はなかなかのものだったので、室内にちょっとした動揺が走った。
「ここから格好いいですきゅ」
空気を変えるように技官がそういうと、画面がズームアウトしていき、だんだんと表示される部隊アイコンが増えてゆく。
地形も読み込まれていき、高低差を表した等高線上に部隊アイコンが並んでいることがわかるようになった。
「グラフィカルに地図表示ができますきゅー」
「すごいきゅー」
「敵なんかこの辺にだしちゃったりして・・・動かしたりもできますきゅ」
画面上に赤い色の仮想敵アイコンが出現し、画面上を動いて見せる。
「この次世代戦略管理システムを採用すると、このような感じで、モダンな戦闘が、できますきゅー」
このあたりで軍人たちと総統は採用を決定した。
「効果的な運用には末端へのキュブパッド普及と、戦術レベルのソフトウェア開発や、データリンクシステムの改修なども必要にはなりますきゅー」
「ドングリがいくらあっても足りないきゅー」
「歩兵部隊はそもそも無線所有率が低いきゅー」
「司令部向けシステムだけでも採用するべきだきゅー」
にわかに会議室が騒がしくなった。
「まぁ、実際に動かしてみてくださいきゅ」
技官がソフトの入ったキュブパッドを差し出す。
「ぶーん、第2増強師団所属の第6近接航空支援部隊だきゅー」
航空部隊を示すアイコンが画面外から飛び出してくる。
「僕の連隊には自走対空ミサイルが編成されてるんだきゅー」
「あの、これは表示だけで戦闘結果とかは出ないんですきゅー」
遊び始めた軍人たちを技官が止めに入る。
「この戦車大隊は僕がもらうきゅ」
「ダメだきゅ!僕の部隊の突破用戦力なんだきゅ!」
こちらの二匹は同じ部隊を同時に自分の指揮下へとドラッグして配置しようとしている。
「ペンでお絵描きもできるきゅ~」
「きゃっきゃっ」
会議室の惨状をなんとも言えない顔つきで眺めているのはキュッチャン総統と、キュブリス総統補佐官、キュブイエフ情報局局長の三匹であった。
総統は尻尾を丸めたり伸ばしたりしながら軍人たちの乱痴気騒ぎを眺めていた。
総統補佐官はあきらめの境地であり、情報局長は腕を組んで軽蔑を隠さずに壁に体を預けていた。
次の日、軍の将軍数匹が処刑された。
その数か月後、次世代戦略管理システムは正式導入された。
しばらくの間は無茶な部隊編成や、管理システム上にしか存在しない部隊などが現れ大混乱を起こしたがそれはまた別の話である。
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