亡命者

「街はずれまで頼むきゅー」

「街はずれは東西南北あるきゅー」

「この国でなければ、どこでもいいきゅー」

闇タクシーの運転手モモンガに乗客のモモンガは言った。

運転手はそれ以上何も聞かずにアクセルを踏んだ。

雨季の頃だった。もちろん外には雨が降っていて。蒸し暑かった。


エンジン音とワイパーの音だけが規則正しかった。

二匹の呼吸は静かに乱れていたし、座席はガタガタと揺れた。

車内の空気は、湿り気のためだけではない重たさがあった。


「街はずれだきゅー。ここから東にまっすぐ行くと、うまくいけば国境を越えられるきゅ」

運転手はそう言うと後部座席のドアを開けた。

「・・・きゅー」

乗客は、何枚かのドングリ交換券を運転手に手渡した。

それが乗客の財産のほとんどすべてだろうことは察しがついた。

乗客は雨の中、東へと歩いて行った。


帰り道も、エンジン音とワイパーの音だけが規則正しかった。

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