観光客 後編
革命記念式典当日、首都キュチャニアシティはいつも以上の賑わいを見せている。
シティ中央広場は式典を見るために集まったモモンガでごった返している。
そんな中を一人の観光客が、足元のモモンガたちを踏まないように苦労しながら歩いている。
背はモモンガたちよりもずっと高いので式典を見るだけならここからでも見れないことはないのだが、撮影のベストポジションを抑えなくてはという思いがあるのだった。
国歌斉唱の後にキュッチャン総統の短いスピーチが終わり、いよいよ彼にとってのメインイベントが始まった。
轟音をとどろかせてメインストリートをキュッチャニア軍の機甲部隊が行進する。
沿道のモモンガたちが歓声を上げる。
彼はやってくる車両群に向けてシャッターをきりつづける。
彼はキュッチャニア軍が保有する旧式兵器や独自開発兵器に興味のあるミリタリーマニアだった。
「今年はすごいぞ、こんなに大規模なのはいつぶりだろう」
「先頭を行くのは空挺軍の第一空挺機甲大隊ですきゅ~。続いて陸軍第一戦車連隊と第一機械化装甲歩兵連隊~」
「空挺戦車だきゅ~」「陸軍の戦車も恰好いいきゅ~」
式典らしい重々しさはほとんどなく、沿道のモモンガもパレードしている軍人のモモンガも和気あいあいとした空気でお互いに手を振りあったりしている。
「装甲輸送車も褒めてきゅ~」
上部ハッチから身を乗り出した軍人モモンガたちも好き勝手なことを言っている。
「続いてはKA-30地上攻撃機による展示飛行ですきゅ~」
気の抜けたアナウンスをかき消すように、亜音速ジェットエンジンの爆音が空を切り裂く。
地上攻撃用だけあって低空でのパフォーマンスに優れるKA-30は市街めがけて急降下、そこからの急上昇を披露した。
「うーん、さすがに攻撃装備はつけてないかぁ。でも下面の資料になるからこれもいいなぁ」
望遠レンズを空に向けながら独り言をこぼす。
「今度は南からKF-32戦闘機が飛んでくるきゅ~見逃さないようにするきゅ~」
それを聞いた彼は眼を輝かせて南を振りむいた。
最新鋭戦闘機のKF-32の実機を見るのは、彼にとっても初めてだった。
それは空に浮かぶ黒点のように現れ、ほとんど一瞬で上空を飛び去ると、総統府の建物の向こうで放射線状に散開しながら急上昇していった。
空軍と総統が見せびらかしたくなる気持ちがわかるほどの素晴らしい動作だった。
「お祭りは楽しかったきゅー?」
来た時と同じ入国管理モモンガが言った。
「来てよかったよ」
「それはよかったきゅー。あ、お土産をあげるきゅー」
モモンガは机の下から安っぽいドングリ型のキーホルダーを取り出して言った。
彼は反応に困ったように(実際、困っていた)そのキーホルダーを受け取った。
「また来るといいきゅー」
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