モモンガくん、マイカーを買う

「大尉ともなったら自家用車の一つも買ったらどうだきゅー?」

大尉昇進祝いの席で同期のモモンガが言った。

「そういうものなのきゅー?」

「そうだきゅー。今度車屋に連れて行ってあげるきゅー」

そういうことになった。


キュッチャニアの車屋は普通、参考用の木彫りのミニカーと、カタログと、説明係が居るだけの小さな店である。

貴重な実車を展示に回すのは、外国人もやってくるシティ中心部の大きな店だけだ。

工場まで行けば現物を見て買うこともできるが、そこまでする必要は感じなかった。

それこそ移動に車が必要になってしまう。


さて、案内をしてくれたモモンガはそそくさとミニカーの飾られたショーケースに向かってしまった。

どうやら、一人で車を買いもしないのに車屋に来るわけにはいかないので、毎回こうしてモモンガを誘ってはミニカーを眺めているらしい。

「カタログきゅー。どういう車がほしいきゅー?」

店のモモンガがくたびれたカタログを持って現れた。

「車のことはよくわからないキュ、どういうのがあるきゅー?」

「きゅきゅ、労働者用の売れ筋はドングリ社のマイクロトラックだきゅー」

なるほど、近所でも見かける小型の一人乗りトラックのイラストが載っている。

「見たことがあるきゅー」

「ドングリで満杯のバケツも軽々運べるキュ。おすすめだきゅ」

「とはいえありきたりだきゅ」

「他の車種はちょっと高くなるキュー」

国は輸送力強化を目的に車を作っている、トラック型以外は嗜好品扱いに近いのだった。

「軍人が乗ってるのはあまり見たことがないキュ」

「階級はいかほどですきゅー?」

どうやら久しぶりの上客だと思われたらしい、少し丁寧な態度になったモモンガに説明する。

「大尉に昇進したから、車ぐらい持てと言われて来たんだキュ」

「大尉!それならもっと上のラインがおすすめだきゅー」

カタログのページをパラパラとめくって見せてくる

「スポーツカータイプのドングリⅢは車好きに人気だキュ。こっちの二人乗りキュダップは10年前に出た最新モデルで、後部座席はドングリを運ぶにも役立つキュ」

「ちょっと高すぎるキュー、毎日のドングリを減らすつもりはないキュ」

「大丈夫だきゅー。軍の大尉なら週の余分なドングリを返済に充てれば十分だきゅー。いざとなれば車を売ればいいきゅ。中古車は国が買い取って整備して、また販売に回すきゅー」

「きゅー・・・」

このまま高い車を買わされてはたまらないので、ページを戻してもっと"労働者向き"の車を探すことにした。

ふと手頃な値段でスタイルの良い車を見つけた。

「これはいいきゅ」

「きゅー、廉価モデルだけど外装がFRPになって軽くなった新型ですきゅー」

価格も申し分なかった。ローン返済に昇給分の何割かを当てれば十分に思える。

「これにするキュ」

「良かったキュ!早速手配するきゅー」

店員のモモンガは店の奥にある電話に向かって歩いていった。


「いつまでミニカーを見ているきゅー」

「即決するなんて気前が良すぎるきゅー」

ようやくショーケースから離れた同期のモモンガがそばにある椅子に座りながら答えた。

「何を買ったんだきゅ?」

「この車だきゅー」

「キュブ・K68、いい車だきゅー」


「大尉さん、運が良いきゅ。来年には納車できるきゅ」

店員のモモンガがニコニコしながら言った。

「そんなに待つのきゅー?」

「とっても早いきゅー。昔は納車に10年かかったきゅ」

「きゅー・・・」

釈然としない面持ちで車屋を後にする大尉と、

今度は誰をどんな理由で誘おうかと考える同期のモモンガくんなのであった。

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