キュッチャニア物語

キュッチャン

キュッチャニア

ドングリを求めてドングリ・ディスペンサーの前に長い列をつくるモモンガたち。

時折見かける貧相な一人乗り小型三輪トラックの頼りないエンジン音。

色褪せた「軍に志願してドングリをたくさんもらおう」と書かれたポスターが風に揺れる。

旅客よりも、もっぱら軍需輸送を重視した鉄道が騒音をあげながら散発的に行き交う。

何気ない日常風景が流れる。

ここはキュッチャニアの首都、キュッチャニアシティだ。


終わりない内戦と、周辺国との散発的な衝突という暗い影はシティにも届いていたが、あくまでも能天気な国民性のモモンガたちにとってはそれほどの関心事ではなかった。


今日も軍のトラックが調子はずれなラッパの録音を流しながら志願兵を募集して市街を走り、能天気なモモンガが音楽につられて周囲に集まっている。

「今志願するとドングリ券が三枚もらえるキュー」

新兵募集のモモンガがドングリとの引換券を手につかみ呼び込みをする。

「すごいきゅー」

のせられたモモンガたちが次々とトラックの荷台に乗り込んでいく。

このモモンガたちはそのままトラックで前線基地へと出荷されていき、

ほとんどは帰ってくることがない。


モモンガ王国がキュッチャン率いるクーデターで、キュッチャニアを名乗るようになって長い時が流れた。

それが何年の出来事で、それから何年経ったのかは誰も知らなかった。

キュッチャニア政府情報部が国民向けに出版する歴史書は、正確な情報を国民に渡すことを渋っていた。

あるいは政府自身、正確なことは知らないのかもしれない。


これは、そんな独裁国家キュッチャニアのモモンガたちの物語である。

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