第3話 お兄ちゃん、この中から選んでよ!
「ここのデパートでいいんだよな?」
「はい! ここであってますよ、お兄ちゃん!」
「じゃ、早速入ろ!」
デパート前に佇む晃良の問いかけに、両隣にいる二人が答える。
反応を見てから、入店した。
このデパートには、食器や衣類など日用品などが取り揃えられているのだ。
一階の方には、飲食スペースがあったりする。
デパートの五階にある衣類売り場である。
三人はエスカレーターを使い、上の階へと移動するのだった。
一応、五階は衣類売り場ではあるらしいが、どちらかと言えば、就寝中に使うグッズやパジャマの類が重点的に置かれてあったのだ。
到着した瞬間には、就寝の時に使う大きなベッドが置かれてある。
「本当に、ここであってるのか?」
「はい、多分ですけど。んー、もしかしたら、商品の総入れ替えがあったかもしれないです。でも、私が欲しいモノは売ってるので問題はないですけどね」
「そうか、なら、いいんだけどさ。それで、晴は何が欲しいんだ?」
「それはですね、こっちに来てください!」
夏菜はというと、まだエスカレーター近くで少々悩み、難しい顔を浮かべていたのだ。
後でやってくると思い、余計に話しかける事はしなかった。
「私、以前から、これが欲しかったんです!」
多くのぬいぐるみが取り揃えられたエリアにて、妹の晴が最初に手に掴んでいたのは、クマのぬいぐるみだった。
クマといっても凶暴な感じではなく、可愛らしくデフォルメされた、世間で言うテディベアだ。
晴は昔からぬいぐるみが好きなのだ。
妹の部屋には多くの動物系のぬいぐるみがある。
部屋に置けないほどであり、置けない分は押し入れにしまっているらしい。
「でも、そんなに買って大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないかもしれないですけど。やっぱり、欲しいので」
妹は瞳を潤ませていた。
「まあ、いいよ。それが欲しいなら購入しなよ」
「ありがと、お兄ちゃん!」
「それで、購入したかったのは、それだけか?」
「まだ、他にもありますから」
再び、晃良は妹に導かれるように、別のエリアへと移動する事になったのだ。
「私、これも欲しいんです!」
妹が元気よく見せてきたのは、就寝用のパジャマだった。
しかも、三種類のパジャマを手にしている。
「全部買うつもりじゃないよな」
「さすがに一着しか買わないですから。えっと、それでなんですけど。お兄ちゃんには、この中から一着だけ選んでほしいんです」
晃良は、妹から三種類のパジャマを再び、しっかりと見せつけられる。
晃良は、それらのパジャマを着ている晴の姿を脳内でイメージしていたが、結論としては、どのパジャマも似合うと思う。
ただ、そのような単純な返答をしたとしても、妹が求めているセリフとは多分違うと思った。
「お兄ちゃん、決めて! ねッ!」
晃良は三種類のパジャマを前に戸惑う。
一つは、水玉模様の明るい感じのパジャマ。
二つ目は、ピンク色と花の模様が彩られたかわいい系のパジャマ。
最後は、デフォルメされた動物らが印刷された、子供っぽい可愛らしさのあるパジャマである。
ど、どれが正解なんだ?
晃良は視界に映るパジャマを見て唸っていた。
水玉か。
晴らしいけど、ピンクの花柄もいい気もするし、でもな……子供っぽいパジャマもありか?
別に他人の前で着る服ではないし……。
晃良は目を泳がせながらも、何度も思考して悩んでばかりだった。
「お兄ちゃん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫さ。ちょっと悩んでて」
「それで決まったんです?」
「それは……まあ、動物系の奴でもいいんじゃないかな?」
「え?」
「嫌だったのか?」
「そうではないですけど……」
晴は何かを伝えようとしていたが、口ごもっていて聞き取れていなかった。
やっぱり、動物系はダメか。
だとしたら、水色かピンクかになるのか……。
ここは直感で決めた方がいいと思った。
いつまでもごちゃごちゃと考えていても始まらないからだ。
「じゃあ……こっちの水色の方で」
晃良はついに、結論を言った。
「この水玉模様のパジャマですね」
「そうだな。その方が今の晴には似合ってると思うよ」
「やっぱり、そうですよね! これの方がいいですよね!」
晴からの反応はいいものだった。
直感だったとしても、正解を選ぶことができたらしい。
「では、私の買い物は終わりなので、会計をしてきますね」
晴が選ばなかった二種類のパジャマを元の場所に戻していると、晃良はハッとする。
「そう言えば、花枝さんは?」
「そう言えば確かに」
妹も今頃、気づいたらしい。
さっき、エスカレーターの近くで悩んでいる姿を最後に、全然見ていなかった。
そんな中、駆け足で向かってくる音がする。
「ご、ごめんね、私一人で勝手に別のところに行ってて」
夏菜が二人の元へ近づいてきた。
彼女は買い物袋を手にしていたのだ。
「もう買ってきたのか?」
「う、うん。どうしても欲しかったから」
「何を買ったんだ?」
「それは内緒」
「なんで」
「晃良のへんたい」
「え、な、なんで、そうなるんだ?」
「いいから! 家族にだって、言いたくない事もあるでしょ。でも、あとでわかるかもね」
夏菜は恥ずかしそうに軽く笑って誤魔化していた。
後は、晴が会計するだけである。
デパートでの買い物を終わらせると、街中のハンバーガー店に立ち寄り、食事を済ませ、そのまま自宅へと帰宅する事になったのだ。
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