第2話 兄として、晃良が出来ることは?

「お兄ちゃんは何をしたいの? 私ね、お兄ちゃんの為だったら、なんでもしてあげるからね」


 右側からは、妹である浅倉晴あさくら/はれの可愛げのある声が聞こえてくる。


「私も、晃良の為なら、なんでもできるから!」


 左側にはクラスメイトで義妹の夏菜なつながいる。

 先ほど朝食を済ませ、支度した後、二人と共に自宅を出ていたのだ。




 晴とは昔から一緒にいる仲であり、妹の事はなんでも知っているはずだった。

 けれども、この頃、妹から積極的に話しかけられる事が多くなっていたのだ。


 それに加え、義妹の夏菜からも色々と誘いを受けることが多くなってきていた。

 一緒の屋根の下で過ごすようになってから、今まで知らなかった彼女の一面を見ることが増えていたのだ。


 夏菜とは普段から教室で会うのだが、以前よりも親密度が増して積極的になっていると思う。


 それほどに二人は、目に見えてわかるほどに変化していたのだ。




 休日。今日は天気が良く、青空の下で、浅倉晃良あさくら/あきらは二人の妹と共に街中にいる。

 三人で街のアーケード通りを歩いて、目的となるデパートまで移動しているわけなのだが、やはり、他人からの視線が気になってしょうがなかった。


 晃良は二人の妹から腕に抱きつかれている事も相まって、現在進行形で周囲の注目の的になっていたのだ。


 現状において緊張感に襲われるが、嫌というわけでもなく、もう少しこのままでもいいような気がしていた。


 アーケード街を歩いていると、車通りのある道に辿り着く。その近くの歩道を歩いていると、色々な出来事があるわけで、晃良は嫌な予感を直観的に感じていたのだ。


 なんか、危なそうだな。


 晃良の数メートル先の道を歩いている高齢の男性がいた。

 歩き方がふらついており、今にも事故に巻き込まれそうな雰囲気があったのだ。


 何事もなければいいんだけど。


 そんな時だった。


 晃良が妹らと共に車道近くの歩道を歩いていると、遠くの方から女性の悲鳴のような声が聞こえてきたのだ。


 気が付いた時には、数メートル先には暴走した車が見えた。


「ちょっと、腕から手を離してくれる?」

「え?」

「……うん、わかったよ、お兄ちゃん」


 晃良の発言に、夏菜は目を丸くして驚いていたが、晴の方は言葉の意味に気づいたらしく、すぐに離れてくれた。


 晃良は夏菜に少し離れててと言葉を投げかけてから、咄嗟の判断で、その高齢の男性の近くまで駆け寄っていく。


 その数秒後。その暴走車が、歩道の方までやってきて、近くの営業前の建物にぶつかって、ようやく停止していた。

 その車からは煙が出ていたのである。


「……だ、大丈夫でしたか?」


 晃良は、態勢を崩しているその高齢の男性に優しく問いかける。


「あ、ああ、私は大丈夫だが、君の方は大丈夫なのかね?」

「はい、俺の方は問題ないので」


 晃良はその高齢男性の腕を強引に引っ張り、暴走車との接触をギリギリのところで回避させられていたのだ。


 その男性は足元が弱かったらしく、少しだけ足を痛めてしまったらしい。


「立てますか?」

「あ、ああ――……ッ」

「でも、このままだと危なそうなので、一応救急車を手配しますね」


 晃良が老人を安全な場所に移動させた後、スマホを使い、連絡を入れる事にしたのだ。


「こ、これは事件だ!」


 その場に居合わせた人らが騒ぎ出し、その光景を写真に収める人もいた。

 動画を回して、実況しながら撮影しだす配信者のような人らもいたのだ。


 いや、まずは警察に連絡が最初じゃないのか?


 救急への電話をしている際、晃良が心の中でツッコみ気味に疑問を抱いていると、晴が咄嗟に服のポケットからスマホを取り出し、冷静な判断で警察に連絡していた。




「まあ、これで一安心かな」


 救急への連絡、警察への連絡も終え、それから五分後くらいには、そのどちらもが現場に到着していた。


「というか、晃良はなんですぐにわかったの?」

「俺、何となく感じ取っただけさ。まあ、さっきの老人の方の歩き方が不安定だったし。危なそうな気がして」

「それでも、よく咄嗟に行動出来たわね」


 夏菜からは感心されていた。


「でも、やっぱり、お兄ちゃんは頼りになります!」


 そう言い、妹は晃良に抱きついてきたのだ。


「ちょっと、抜け駆けはダメだからね!」


 夏菜はお姉さんのような口調で、晴に指摘していた。


 実のところ年齢的に見ても、夏菜の方が年上である。

 けれど、妹歴としては晴の方が上であった。


「まあ、ともあれ、解決したわけだし、そろそろ目的のデパートに行きましょうか」

「そうだね」


 夏菜の発言に、晴は頷く。


「お兄ちゃんも行こ!」


 晴は晃良の右腕を掴んでいた。


「私も繋ぐから」


 そう言って夏菜も笑顔を見せつつも、晃良の左腕を掴んできたのである。


 再び二人の妹の板挟みにあったまま、晃良は街中を歩く事となったのだ。


 二人の妹と関わるのは大変である。

 これからも色々な出来事に巻き込まれるかもしれないが、二人の兄として、しっかりとしていこうと思うのだった。

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