4月1日
「病院に行こう。」
私がそう言い放った瞬間、彼の顔からあのにやにやとした笑みが消えた。
「え?」
わずかに開いた彼の口から出たのは、まるで感情をごっそり奪い取られてしまったかのような空虚な声だった。
「もう、だめだよ。」
「え?なーちゃん…」
「動物殺して持ち帰ってきたり、自分の舌噛みちぎったり、普通じゃないよ。おかしいよ。」
「ちがうよ、ねえ聞いてなーちゃん。」
「どこが違うの!?おかし…」
そこで私はあることに気づいて、背筋が凍った。
「ねえ、さっき、舌、した、噛みちぎったんじゃないの…?なんで喋ってんの。」
そう聞く私の声は聞いていて可哀想になるほど震えている。
彼はニヤリと笑ってから口を開け、それから、あるでしょ、と言うように自分の口内を指差した。
なくなったはずの舌が、そこにあった。
「ジョークに決まってるじゃん。」
彼氏はそう言って笑った。今日4月1日でしょ?エイプリルフールって知らない?と言って、心底おかしい、といったふうに笑い続けている。
でも、私はそんな彼の言葉に安堵できるはずもなく、むしろ身体が強張るだけだった。
「ねえなーちゃん、どうしたの、そんな怖い顔して。」
彼氏が私の顔を覗き込み、半笑いで尋ねてくる。私はそれに答えずに「ごめん、ちょっと出てくるね。」と言い残し、スマホと鍵だけを持って飛び出すように外に出た。
歩く。
あてはない。ただひたすら、歩いている。
時折後ろを振り返って、彼氏が追いかけていないことを確認して、その度にほっとした。
ふと気になって、スマホを開いてみた。
でかでかと表示された時刻の下に、ちょこんと日付が表示されている。思わず、目を留めた。
11月13日。
エイプリルフールではなかった。
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