最悪
一郎丸ゆう子
第1話
前世は商売人の長男に生まれちゃってさあ、家継がなきゃなんなくて、本当は小説家になりたかったのにさあ、嫌いなそろばんとか覚えてさあ、やっと跡継げるようになって、嫁ももらったら、戦争に駆り出されちゃってさあ、ひどい目にあったから、今世は女に生まれて、平凡なサラリーマンと結婚してお気楽主婦になる予定だったのにさあ、なんか、世の中いろいろと変わっちゃってさあ、計画めちゃめちゃ狂ってんだよねえ。
とりあえず高校卒業して数年勤めて貯金貯めて、会社で目ぼしい男見つけて結婚する計画だったのに、女も大学に行く時代になっちゃって、幸か不幸か親にそこそこの経済力と、新しい価値観への理解があって、そこそこの学力もあったもんだから、まあまあ名のある大学に受かっちゃって、本当は行く気なかったのに、親や親戚が喜んじゃって、盛大にお祝いなんかしてくれるもんだから、なんか成り行きで入学しちゃったんだよねえ。
まあ、ここで結婚相手見つけて卒業と同時に結婚目ざすかって思ってたんだけどさあ、先に大学卒業した姉が結婚して、家出ることになってさあ、
「家のこと頼むね」
とか言われちゃったんだよねえ。
いや、それが嫌だから次女に生まれてきたのにい。
そこそこ美人で“できる”女だから、ちゃんと家継いでくれると思って姉に選んできたんだよお。ああ、それなのに、こんな結果になるとは。
こんなことなら、もっと美人に生まれてきて、グラビアモデルとかNo.1キャバ嬢にでもなって、若いうちにお金稼いで早期リタイヤする人生にすればよかった。
そこそこの男と結婚して、お気楽主婦になる予定だったから、そこそこの容姿選んできちゃったじゃん、もう。
まあ、それでもさあ、就職先でちょうどいい男見つかってね、プロポーズしてくれたから、やったあ、寿退社して3食昼寝付き永久就職って思ったらさあ、世の中女も一生働けみたいな風潮になっちゃってえ、どっちの両親も、結婚後も働かしてくれる会社でよかったねえ、とか言うし。
ああ、これも幸か不幸か福利厚生がかなりしっかりしてる会社に勤めてた。
でも、結婚した男女が同じ会社って気まずくないって言ったけど、我が社のシゴデキ上司が、ワタシ的には悪しき前例作ってくれて、夫婦で同じ部署で結婚後も同じキャリアで働いて、まわりともうまくやって、業績も上げてるんだよお。
だから、
「結婚しても今まで通りで大丈夫よ」
とか言われて、
「部署異動の希望出してもいいよ」
なんて言ってくるし、
お相手も
「結婚しても働いていいよ」
なんて言うし、
違う違う、結婚したら家庭に入ってって言ってほしかったのお。
なんか、どんどん違う方向に世の中変わってるう。なんでえ?
まあ、いいか、子どもできるまてお金貯めて、子どもが生まれたら完全に家庭に入ってゆっくり子育てしよう。
と思ってお金貯めて、3年後に無事ご懐妊したから、マタニティ退職しようとしたら、なんか子育てしながら働ける社会を! みたいな風潮になっちゃってて、これもまた幸か不幸か産休も育休もしっかりとれる制度ができ、先輩たちが私的には迷惑な前例をしっかり作ってくれちゃって、両親たちも孫を預かれるって喜んじゃってるのお。
もういや、私、自分の子預けて働きたいなんて、まったく思ってないんだけどお。おまけに住んでる自治体保育園無償化になっちゃって、働ける環境ありまくっちゃってるう。やなのにい。
もう、ウーマン・リブ運動とか、男女共同参画とか言い出したやつだれだよお。いらん!
意外と気が弱く流されやすい私は、結局子どもを預け、そのまま会社で働き続けてる。
もうこうなったら、とことん働いてお金貯めて子どもをいい大学に入れるぞうって思って働いてたら給料どんどん上がったから、いっぱい貯金しよう! って思ってたらさあ、先に結婚した姉が、子供の習い事にお金がかかるだの、入学金が払えないだの言って貸してくれっていってきてさあ、ボーナスで返すっていうから貸したんだけど、結局夏のボーナスで返してくれたと思ったら、冬のボーナスで返すから貸してくれって、それの繰り返しで、全然返ってこない。
私も結婚したんだし、長女なんだからあんたが両親の面倒見るよね、って思ってたら、旦那が転勤とかで遠くに引っ越しちゃって、
「お父さんとお母さんのことお願いね」
とか言ってくるし。
いや、なに自分はお役御免みないな空気だしてんの? なんか腹立つ。そっちに両親呼んでもいいんだよ。
あんた長女だからって、結婚式も花嫁道具も全部出してもらったでしょ。
私はもううち余裕ないからって、全部自分で出してんのよ。出させる時はださせて、やることはやらないってずるすぎでしょ。
で、親はこっちの給料が高いとみると、子どもみてるのを盾にして、なんやかんやと遠回しに請求してくるし、勝手に高いおもちゃ買ってきて、買っといたからお金払ってね、とか言ってくるし。
違うんだよお、私の理想は子どもと自然にふれあって、手作りおもちゃとか、土いじりとかして、お金のいらない遊びをするっていうのだったんだよお。なんでこうなっちゃったんだろう。
ああ、今日も女性の社会進出とか、子育てしながら働きやすい環境を、とか、余計なことを叫んでくれてる女性政治家さんや有識者たちがテレビに出てる。テレビに出ている間は子どもはどうしているんだろうか?
私は全然両立なんてしたくなかった。女性の権利を主張しているふりした無茶振りじゃないのか。母親虐待で国ごと訴えてやろうか、くそっ!
女は戦争だけは行かなくていいって思ってたけど、そんな時代でもなくなった。ああ、王子様に愛されて助けられたい。男は女を守れよ、か弱いんだから。男女平等とかいって女の負担が増えてるだけなんだよ!
ああ、せめて日本が戦争に参加することだけはないまま今世を終えたい。絶対終える。もう、ここだけは死守する💪
なんだかんだで子どもはどんどん大きくなって、小学校に上がる年になった。
近所の公立小学校の児童センターがいっぱいで、預ける場所がないらしい。
やったー、チャンス。今度こそ専業主婦になるぞ! って思ってたら、母親が送り迎えするから免許とらなきゃってはりきってるんだけど。えー、余計なことしないでよ。それにお母さんの運転信用できないよお。
で、なんか、旦那が私立小学校入れようか検討しはじめたよ。いや、共稼ぎでそこそこの稼ぎがあるとはいえ、サラリーマンの子どもが私立小学校なんか入ったら浮くでしょ、と思ったら、現代の親って教育熱心っていうか、身の丈しらずっていうか、ごく普通の家庭でも私立入れる人結構いるのね。お受験とか面倒くさいんだけどお。
なんか、放課後校内で習い事も出来て、見守りスタッフも常時待機してるからワーキングママも安心なんだってえ。なんで、そんなにママを働かせたがるのよ。それならニートを引きずりだせよ。えーん(T_T)
なんてことを考えてたら、旦那がニューヨークに転勤になったよお。
でね、でね、慣れない土地だからサポートしてほしいし、いいタイミングだからあっちの学校に入れたいから仕事辞めて付いてきてって旦那に言われたのお。
やったー、ついについに念願の専業主婦になるんだあ!
私、大学英文科だったから短期留学行ってるし、私立受験のためにと思って英語勉強し直してたからアメリカ生活自信あります。えへへ。
「お姉ちゃん、お母さんとお父さんのこと頼むねえ」
と言い放ち、いざ、渡米!
えへへ、こっちは海を隔た異国だからねえ。国内にいるお姉ちゃんのが絶対的に近いからねえ。
グッドラック、ジャパニーズファミリー👋
最悪 一郎丸ゆう子 @imanemui
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