ドジな召使いと器用な召使い

屋敷で二人の召使いが働いていた。

そのうち一人は失敗ばかりのドジな召使いで、食器を割ったり掃除用のバケツをひっくり返すなど日常茶飯事だ。

ある日ドジな召使いが掃除中に飾られていた高価な壺を割ってしまう。途方に暮れて泣いていると器用な召使いがやってきて割れた壺をどこかへ運んで行った。


しばらくして器用な召使いが戻ってくると、壺は元通りになっていた。


「綺麗に直せたから黙っていればバレやしないよ」


ドジな召使いが礼を言って壺を元の場所に置いた。器用な召使いの言う通り、屋敷の主人にはバレなかった。



後日、ドジな召使いが別の壺を割ってしまう。器用な召使いはまた壺をどこかへもっていき、元通りにして戻ってきた。


「助けてくれてとても感謝しているけれど、なんですぐに直せるの?」


ドジな召使いはそう聞くと、器用な召使いは笑って答えた。


「君がミスしても大丈夫なようにしっかり準備をしているのさ」


その言葉通り、ドジな召使いが壺を割るたびに器用な召使いはそれらをすぐ元通りに直してみせた。



屋敷の主人が友人を連れて意気揚々と帰ってきた。主人は自分のコレクションを友人に自慢するつもりだった。

二人は様々なコレクションを見回り、そして壺のコレクションの前で主人が言った。


「どうだ友よ。私はいろんな素晴らしい品を持っているが、これらの壺は特に素晴らしいだろう?」


「これは、驚いたな」


「そうだろう、そうだろう。これほど見事なものを持っているのは私だけだろうからな」


「そうではないよ」


「……何? どういう意味かね?」


「どうもこうも、どれも贋作ばかりじゃないか。本物は有名な鑑定士の証明書付きで前に売りに出されていただろう? 知らなかったのかい?」

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