不老不死

ある日男が住む屋敷に金持ちが訪ねてきた。

金持ちは男の関するうわさを耳にした。屋敷には不老不死の男が住んでいるという。

使いきれんばかりの富を持つ金持ちは、男から不老不死の秘密を聞き出して、自分も永遠の命を手に入れようとしていた。

金持ちを迎えたのは、どこにでも居そうな普通の男だった。

男は愛想よく金持ちを迎えたが、周りにいた金持ちの部下には屋敷の外で待つように言った。

部下からは反発がでるも、男の機嫌を損ねるわけにはいかないと思い金持ちは部下に待機を命じた。

そうして彼に案内されたのは屋敷の小さな部屋だった。

部屋の中心に置かれたテーブルをはさむようにソファーが向かい合っている。

金持ちと男がソファーに座り対面したところで、金持ちが口を開いた。


「まず君は本当に不老不死なのかね?」


金持ちが怪訝そうに聞いたが、男は落ち着いた様子で答えた。


「ええ本当ですよ。私は老いず、死ねず、もうずっと生きています」


金持ちはいまいち信じられなかった。自分の目の前にいる男はどうみても普通の人間だったからだ。

そんな金持ちの気持ちを察したのか、男が小さく笑って言う。


「私は生まれつき不老不死だったわけではなく、元々は普通の人間でしたよ。おそらくあなたが聞きたいことを私は知っています。不老不死になる方法ですよね?」


その言葉を聞き、金持ちは興奮が抑えられなかった。


「本当かね! ぜひ教えてほしい! 金ならいくらでも払う!」


金持ちは興奮が抑えきれなかった。夢が叶う。莫大な富と無限の時間を使って楽しく暮らすという夢が目の前まで来ていた。

男は変わらぬ落ち着いた様子で答える。


「いいでしょう。では私の言うことをよく聞いてください。まずはそのソファーに寝そべってください」


金持ちは言われるままにソファーに寝そべった。何が始まるのか。本当になれるのかといった不安が顔ににじみ出ている。


「ああ、心配なさらないで。私も当時はインチキにしか思えませんでしたが、今ではこの通りですから」


「う、うむ。では続けてくれたまえ」


「はい。次は私の手を握って。そう、良いですね。そのまま目を閉じて、ゆっくり深呼吸をしてください」


こんなことで不老不死などになれるのかと金持ちは思った。

疑いが晴れぬまま目を閉じ、深呼吸をしているうちにいつの間にか金持ちは眠ってしまった。


どれくらい経ったのか。金持ちが目を覚ますとそこには誰もいなかった。

金持ちが呆然としていると、テーブルの上に一枚の紙が置いてあることに気づいた。手紙だ。


『お約束は果たしました。鏡をご覧ください。お望み通り不老不死になっているはずです』


続きを読む前に金持ちは部屋にあった鏡で自分の顔を見た。

あの男の顔だ。先ほどまで話していた男の顔がそこにあった。


金持ちは慌てて屋敷に外へ向かった。外には自分の部下たちがいる。

玄関に着き、助けを求め扉を開けようとしたが、扉はびくともしなかった。

混乱する金持ちは自身が握りしめていた手紙の続きに目を通す。


『代わりにあなたの身体を頂きました。限りある生を楽しませてもらいます。どうか心配なされないでください。私のようにいつかそこから出られる日がきっと来ます。なあに、時間はたっぷりとありますから気長に待ちましょう』

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