恐ろしい病

ある古代文明を研究していた博士が助手に告げた。


「助手くん、私はついに古代人たちの文明が崩壊した原因を突き止めたぞ」


「本当ですか博士!」


「ああ。原因というのがどうも、ある病によるものらしい」


「病気ですか。いったいどんな病気なんです?」


急かす助手を落ち着かせ、博士は自身が発見した古代の病について話し始めた。


「この病にかかった人間は他人へ危害を加え始めるらしい。しかもその行為に快感を覚え中毒となってしまうようなんだ」


「加虐性の増大ですか。脳疾患、あるいは精神病の類でしょうか」


「そうかもしれん。この病にはもう一つ別の症状が出ることも分かっている」


「いったいなんです?」


「病にかかった人間のうち、危害の矛先が他人ではなく自分に向かうものがいたらしい。自己批判や自己嫌悪、あげく自傷行為に及ぶものまでいたそうだ」


「恐ろしいですね……。博士、その病とは一体何なんですか?」


「うむ、古代人たちは凄まじい技術の進歩によって労働から解放され、各々が自由に過ごせる時間を大量に確保していた。いや、持て余していたと言っていいかもしれん」


一瞬間を置いて、博士は答えた。


「古代人たちはこの病を、暇、と呼んでいたそうだ」

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