第2話 大先輩との初対面
「よっす。君が例の新人ちゃん?旧人類希望の星なんだってね?」
『守護者たちの拠点(スプライトベース)』のラウンジでニュース記事を読んでいると、後ろから誰かに話しかけられた。
「たぶんそう。みんな大げさだと思う」
振り返ってみると、そこにいたのは胸のおっきいかわいいねーちゃんだった。
ジロジロと見るのは失礼だという意識はちゃんと持っているし、自分を見すぎて美人には慣れたから反応も多少はマシになってるだろう。
「!!! 生で顔見るのは初めてだから……はぁ、流石に噂になるだけはあるね。すっごい美少女だね……。もう人間かどうかすら疑わしいや」
「褒めてくれてありがとう」
人間かどうか疑わしいというのは褒め言葉と取れるかは怪しいが、まあ新人類は畏怖の対象だからな。
この人は新人類なのかもしれない。
だって、新人類は『人間ではない』と恐れられることもあれば、頼もしいと思われることもある。はたまた崇拝の対象に成ることすらある。
だから、人間ではない≒新人類に近しい存在として認識しているからこそ出た言葉なのかもしれない。
まあ、それがなくても全く同意するけどな。ほかでもない俺自身が、己が異質なほどに美しすぎることに舞い上がったり困惑したりしているのだから。
「……どういたしまして?うん、まあいいや」
……?ああ、褒めたわけではないのかもしれないな。
文字通り『畏怖』、そんな感情に近いのかもしれない。
「で、チカラの方は慣れたかな?私は新人類だから良くわからないんだけど、旧人類の子たちはチカラを得てすぐの頃は持て余し気味になるって聞いたけど……大丈夫そう?」
心配そうな表情で、先輩はそう問う。ありがたいな。
いい先輩だ。まとまった金が入ったら、いつか労いたいものだ。……その時まで、互いに生きていれば良いんだけど。
この世界では命の価値が安い。
士階級や公階級、王族級の方々や、平民や下階級でも俺みたいな戦士であれば命は大切に扱われるし死んだら悼まれる。
だけど、上流階級の平民はともかく、中流層以下の平民だったり下階級……被差別階級の人たちはいつ死んでもおかしくない。
金のある上流層はセントラルに住むことができるけど、金のない普通の平民や貧乏人はいつ怪物共に襲われてもおかしくない外部市街に住むんだからな。
もちろん、人口が減りすぎてはマズイし、人権思想も未だにあるっちゃあるのだ。
だから、俺達みたいな戦士が助けに行くわけだが……やはり、必ずしもうまくいくわけではない。
犠牲者はまず出るのが普通だ。
なんともやりきれないよ。俺だって友人たちの死を何度か眼の前で見てきた。
俺は旧人類とはいえ適性者夫婦の息子だったから生まれつき強かったし、手術は受けておらずともそれなりに訓練を受けていたから、逃げるのは達者だった。だから生き残れた。それでも、移り住んだあの街を助ける順番は相当下の方だったからなぁ。
怪物を殺す手段がない俺では彼らを助けられなかった。
考えてて悲しくなってきたから脳内思考を打ち切ろう。
この間1.24秒!
不審に思ったりされてないよな?うん、大丈夫そうかな?
……で、チカラの方に慣れたかどうかの話だよな。うん。そうだな。
「私の場合は両親が適性者だったから、知識も教えてもらってる。思ったほどキツくはないわ」
力はたしかに格段に跳ね上がった。
適合手術……怪物どもの因子を取り込むと、身体能力が飛躍的に向上する。
寿命も伸びる。
手術から一ヶ月ほどはだいぶ辛かったりするようで、ほとんどの人がダウンするようだ。人によっては地獄と表現するほど重い症状が出ることもある。
両親もダウンしたらしい。鬼のような苦しみだったと言っていた。
だけど、俺は我慢できるから。単なる肉体的な苦痛ならばいくらでも飲み込める。
辛くないと言ったら嘘になるけど、泥水を啜るのには慣れているから。
それに、さっきも言ったように両親から対処法を教えてもらっているので実際に本来よりは楽になってはいるんだ。だから、大丈夫。
「なるほど。それならよかった。困ったことがあったら何でも私に言ってね?先輩として役に立ってあげるから!」
そう言うと先輩は胸を張ってドヤ顔をした。
うーん、かわいい。
「ありがとう。感謝するわ」
そう言ってニッコリと笑った。
笑ったつもりになっていただけだった。
実際には薄く笑みを浮かべただけになっているだろう。
この体は特に顕著だが、俺は元から表情があまり変わらない性質なのだ。
だが、先輩は……。
「……ハッ。あまりに可愛すぎて息止めてたわ。なにこのかわいい生き物」
意識を持っていかれていたようだ。
はて?感情表現苦手系美少女が好みなのか?
「そう。それは光栄。……で、そういえばまだ名前、教えてなかったわ」
「う、うん。そうよね。自己紹介がまだだったわよね。私はあなたの名前を知っているけど、あなたの口から聞きたいわ」
「私は北条(ほうじょう)クオン。大昔の大名家の家柄と聞かされた。執権ではなく伊勢の方だとかなんとか。所詮はただの一般層よ。まあ、父さんが見栄を張るために考えた与太でしょうね」
「やっぱり可愛い名前だね!」
思わず苦笑いを浮かべてしまった。
実際には微妙に表情が動いただけだろうが。
クオンというのは実名だ。男だった頃からこの名前なのだ。
何を考えてつけたんだか……。今となっては感謝する他ないけど。
「……私の他のデータは知ってるの?」
気になったので聞いてみた。
他のデータ……元の性別については広く知られているのか、どうなのか。
「物凄く強くなれるってのは聞いたよ!この私より異能強度が高いじゃん。嫉妬しちゃうよーこのこのー」
「他は?」
「……?他?なにかあったりするの?」
この様子だと知らないみたいだ。
まあ、一般層の底辺の情報なんて知らないか普通は。
「なんでもないわ。……あなたの名前も知りたい。良い?」
「もちろん良いよ!私は長瀬ユリカ!新人類の両親から生まれた新人類だね。だからって特別な特徴はないけどね。他の新人類と変わらないわ。あ、でもでも。これでも私、結構強いんだよ?ほら、これ見て見て!」
ユリカ先輩の胸元を見てみると、勲章がひぃふぅみぃ……13個もあった。
しかも、特別な勲章がほとんど。
さすがにおったまげた。
……とんでもない人なのでは?
あ、そういえば長瀬ユリカといえば聞いたことがあるな。
『焦土剣のユリカ』という異名は底辺にほど近かった俺でも知っているくらいだ。
美人だとは知っていたけど……これがあの『焦土剣のユリカ』かぁ。
中流中央街の街頭ビジョンで見た雰囲気ともだいぶ違うなぁ。
アレは雰囲気を作っていたのかな?
……しかし、とんでもない人に目をつけられたな。
「……無礼を謝罪したほうが良い?」
「あんまりかしこまられると嫌だよ。もっと仲良くしたいんだからさ。最低限先輩呼びしてくれればあとはどうとでも言い繕えるから!」
「……そう。なら、そうさせてもらう」
「あ……いけない!今日中に提出しないといけない書類があるんだった!付き合ってくれてありがとうね。んじゃ、これからもよろしくっ!」
「ん。よろしくおねがいします」
そんなこんなで、偉大な大先輩とのファーストコンタクトは終わった。
とんでもない戦士と繋ぎをつけられたようで良かった。
しかも美人で優しいお姉さんと来た!
最高だな。ウハウハだな。……ふふ。
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