ポストアポカリプス世界で生きていたらTSしちゃったけど人類戦士を目指します!
小弓あずさ
第1話 鏡を見れば
ある日突然、なんの前触れもなしに、異世界から怪物が現れた。
彼らは既存の兵器ではほぼ対応できない『霊的装甲』を備え、異常な力を持ち、特殊な力をもって人類を追い詰めた。
……結果として、人類の領土はかつての30%ほどにまで縮小した。
だが、人類は当時の最強兵器の力によって弱い怪物をなんとか殺すことに成功。
その成果によって、彼らの体を構成する細胞を解析することができた。
それにより、武器を作る。怪物を殺せる武器を。
その武器を操るなんていうのは普通の人間には無理だ。体への負担が大きすぎる。彼らの細胞は万象を蝕む呪いのようなものだったから。
しかし、人の体を介さないと使えない。意思がないと振るえないのだ。
そこで、人類は武器を振るえる強化人間を作り出した。その結果生まれたのが新人類と呼ばれる人類の守護者たち。
新人類たちは、怪物たちを倒して行き……しかし、それでも戦いは終わらない。
劣勢とは言わない。滅びが近いとも言わない。
だが、均衡状態だし命の危険はどこにでもある。
そんな世界に旧人類として生まれたのが俺だ。
最近では生まれつきの新人類でなくても、適正によっては新人類に近いパワーを発揮できるような改造手術が行われている。
150年前……怪物たちに対してなすすべがなかった当時の人類もこの手術を受けていた。
当時の手術は体への負担も大きく、寿命も大幅に縮まり、また新人類に比する力など得られないという代物だった。
が、最近では『人類戦士』の称号を得たやつが旧人類という時代も一瞬ではあったが一応あるにはあったくらいには改造手術がグレードアップしている。
まあ、流石にもう技術革新は頭打ちらしいけど。
で、俺はその『適合試験』に合格してしまったわけなのだよ。
「……それで、結果がこれ。人生ってクソね」
改造手術にイレギュラーが発生してしまい、俺の体は女のそれに変貌してしまった。
かつての時代は稀にあった副作用らしい。
今は本当に、一例もないくらい珍しいようなのだが……ともかく、俺は女になった。
それも、とびっきり可愛らしい美少女に。
人生ってクソだな、やっぱ。
それでも、今までの人生よりはマシだ。
9歳まではそれなりに裕福だった。
両親ともに旧人類ながらもそれなりの戦士だったから、たんまり金はあった。
裕福に暮らしていた。
階級としては士階層ではなく一般層だったが、公階層であってもたやすく処分したりはできないくらいには厚遇されていた。
だけど、ある日突然死んだ。大型種の怪物に殺されたらしい。
中型種相手でもヒーヒー言ってた両親では抗うのがやっとだっただろう。
それで、頼るものもすがるものもなくなった俺は、親戚どもに金を奪い取られ、家も取られ、すべてを失って一般居住区域の下層で生きることになった。
化学合成のゲロマズイ飯になんとかありついて、食いつないで……それで、15歳になって簡易テストを受けた。
両親ともに適正があったから、当然俺も適正があるとは思っていた。
確実に遺伝するとは限らないが……ちゃんと遺伝していた。
だから、人類の守護者の立場に上り詰められた。
たとえ女になったとしても、今までよりはマシだ。
飯はちゃんと毎日食える。しかも三食だ。味も保証されている。なんてったって人類の守護者だからな。
俺の場合、特別適性が高いから、そこらの新人類よりずっと期待されている。
悪くはない。悪くはない……ああ、必ずここからのし上がって見せる。
「でも……」
鏡の前で苦笑する。
表情にはあまり出なかった。
綺麗な銀髪に、雪のように白い肌。眠そうな赤い瞳。15歳にしては低い身長。そして、誰もが魅了されるほどの美しさ、愛らしさ。
「さすがにこれは酷いわね。あんまりにもあんまり」
この口調は意識してこの口調にしている。
変な目では見られたくないから……とか言うわけではなく、単に似合わないから変えただけ。他意はない。思いの外しっくり来ている。
でもなぁ、ここまで可愛いのはなんか違うよな。
たしかにもともと特別美形だった自覚はあるけど、美少女になると他から見られる目線が変わるんだよなぁ。
てか、こちら側の感性、感覚も若干変わったと言うか。
……見られているのがわかるのよ。
顔をよく見られる。息を止めて見惚れられることもしょっちゅうだ。
そういう反応自体には慣れているけど……男にそういう反応をされるのはキツイなぁと思わざるを得ない。
いやまあ、元の身体の時点でそういう目で見られたことはあるんだけどさ。
後ろの危険を感じたので逃げるようにやり過ごしたけどな。
でも、頻度が比じゃないからさぁ。
はぁ、やっぱり人生ってクソだな。
……でも、かわいいもんはかわいいから見られるのも仕方ないよなぁ。鏡に映る少女が俺自身だと完全に理解していてもなお、胸がドキドキするほど可愛いから。
俺、かわいいな……ふふふ……。
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